第二十一章 苦悩

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第二十一章 苦悩

 ホワイトボードで馨の予定を見て、ハッとした。  放っておきましょう、なんて白々しいこと言いやがって――!  五分おきに三回、電話を鳴らしたけれど、出るはずもなく。  とにかく悶々と仕事を片付けた。定時で帰れるように。  一人で帰社した平内を捕まえて馨のことを聞いたら、案の定、玲と話があるからと残ったという。平内も心配していた。  写真のことも知っていた。 「馨は部長に写真を見せたくないようでした」  コーヒーを冷ましながら、平内が言った。 「私は見せて話し合うように言ったんですけど」  俺が出張先で玲に会ったことを話さなければ、馨は写真のことを言わなかったのではないか。  そう思うと、恐ろしくなった。  俺の知らないところで、俺に関することで、俺に関わる女が火花を散らす。  男冥利に尽きると笑えるほど、俺は青くない。 「写真は見たけど、馨は放っておこうと言ったんだ」 「部長も馨も人が良すぎです。あんな女のことなんて無視して、さっさと結婚しちゃえばいいのに」と、平内がズバリ言った。 「まさか、別れた女に情が残ってるわけじゃないですよね」  上目づかいで、ジロリと睨まれる。  平内でさえそう思うんだから、馨が思わないわけがない。 「正直、信じたくなかったな」 「これだから男は……」と言って、呆れ顔でため息をつく。 「スマートな恋愛をしてきたつもりなんでしょうけど、そんなもんはないんですよ。男と女に円満な別れなんてあるはずないじゃないですか!」  返す言葉もない。 「いい男ぶっても結局こうしてこじらせてるんですから、半端な優しさは捨てて、とっととあの女を黙らせてくださいよ」 「……はい」 「とにかく――」  トントンとドアがノックされた。 「はい」 「那須川です」
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