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「咲良の両親は
ちゃんと話を聞いてくれるんだから」
羽奈のその言葉に背中を押され
頑張れそうと思ったんだけど……。
タイミングが掴めないまま 数日が過ぎた。
……はぁ。なんかさー、なんかさー。
タイミングってなに?
どこに売ってるの?
聞いて欲しいって考える時間が長いほど
色んなことを思い出してしまった。
「ハルトが引き取るならすぐ別れたい!」
「咲良なんか いらない。」
他にもいろいろ
ママが ヒステリックに叫ぶ声。
私が熱を出したって連絡があっても
迎えに来るのは おばあちゃんだったり。
遠足や 修学旅行のお見送りも
おばあちゃんだったなぁ。
小学生のころは参観も 音楽会も 運動会も
どれも 大っ嫌いだった。
お父さんが 忙しいのに
無理して会社を抜けてきてくれて
会社から直接だから スーツ姿で。
ただでさえ 男の人は少ないから目立つんだよ。
それで、お仕事があるのに無理してくるから
その後しばらくは 残業が増えるの。
私が疲れさせてるんだって、
……すっごいイヤだった。
そうだ。小学校高学年のころ、
まだ お母さんが パパの彼女 だった時は
学校行事は お父さんがお願いしても
お祖母ちゃんが 誘っても
お母さんは 来てくれなかったんだ。
お母さんが
初めて私の行事に参加してくれたのは
入籍後の 小学校の卒業式。
照れくさくて でもすごく嬉しくて。
羽奈や奈央や、他にも仲の良い友達で
お母さんと面識があったみんなに
「みてみて!私も両親が揃ってるよ!」って
口にこそ出さないものの
そんな誇らしい気持ちもあった。
……あー。私、覚えてる限り
むかしからずーーっとお母さんのこと
ホントに大好きだ(笑)。
だから ママの 嫌なこと、
忘れられてたのかな。
ある土曜日。
羽奈のピアノのレッスンが終わる頃を見計らい
私もお祖母ちゃんの家へ 行った。
「レッスン終わったー?」
羽奈にLINEすると玄関のドアが開いた。
『勝手に入ってきて良いのに(笑)。
羽奈ちゃん、あと少しだから 入って待ってて。』
お祖母ちゃんに招き入れられ
リビングのソファに
手持ち無沙汰で 座っていると
テレビラックの横のアルバムが 目に入った。
……わ。懐かしい!
幼稚園の頃の写真だ。
羽奈と奈央と私、3人の写真が多くて笑う。
アルバムに見入っている間に
羽奈のレッスンが終わり
お祖母ちゃんが ピザを取ってくれることになった。
『若い子と一緒じゃないと、
ピザなんて 食べきれないから嬉しいわ。』
そう言って笑うお祖母ちゃんからは
一緒に住んでいた時ほどの厳しさは感じられない。
『ね、このアルバムっていつもここにあった?』
『この前お祖父ちゃんが、
引っ張り出してきたのよ。
咲良が高校に入学した時の写真を
郁ちゃんが持ってきてくれたから
整理しようとしてたみたいよ?』
羽奈も一緒に
「なにこれ!懐かしい!
ちっちゃい!可愛いっ!」って 見入る。
『こうやって見てみると
ちっちゃい時の方が
奈央と羽奈 似てるね。』
『えー?そーお?』
自分ではわかんないわーと笑う羽奈に
お祖母ちゃんは 言った。
『あなたたち、3人ずーっと一緒にいるから
先生方から 3つ子みたいねって言われてたの
覚えてない?』
羽奈は 覚えてるー!と言うが
私は あんまり 覚えてない。
『咲良、
記憶力は 良いほうじゃないものね(笑)。』
『……お祖母ちゃん、ママの写真とかある?』
『ウチには多分ないよ。』
『やっぱり捨てちゃった?』
『え?捨ててないでしょ。
咲良の家にあるはずよ?
ハルトと咲良が ここを出る時に
全部 持っていったもの。』
『そうなの?』
『お祖父ちゃんも
ウチで預かろうか?って言ったのよ。
でも 郁ちゃんが
これは 咲良の宝物だから
持って行っていいですか?って。』
……知らなかった。ダメだ。最近涙腺が……。
また涙が出そうだったけど なんとか 我慢した。
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