3

3/4
前へ
/53ページ
次へ
ひとしきり笑ったら 奈央に 質問された。 『今朝も ぼーっとしてたけどさ。 上手くいってない?』 奈央って 普段なら こんなに ツッコんで聞いてこない。 心配させちゃってるなぁ。 『……ううん。全部私が悪い。 勝手に 怒ったり泣いたりしてるだけ。 お父さんも お母さんも 何も悪くない。』 『んなわけないじゃん。』 ? 奈央が 何を否定したのか理解できず 質問してみると 奈央は 「さくも 何も悪くない。」と 真顔で 言った。 その言い切り方が 面白くて吹き出してしまう。 『ふふ。ありがとう。 あーあ。再婚家庭だって また自分からバラしてしまったーーー。』 おどけて言いながら 立ち上がると 奈央も立ち上がり、 どちらからともなく 歩き出した。 『またって?』 『中学のとき、 なーんにも考えずに仲良くなった子たちに 再婚したばかりって話したことがあって。 すぐに広まって好奇心で聞いてくる子とか、 それはまだマシで 見下してきたりコソコソ くすくすされたり。』 『はぁ?イジメ?』 『そこまでじゃないけど。 女子ってそんなだもん。 その時に、こういうのって あんまり言わない方が良いんだなって 学習したはずだったのに。 またやっちゃった。』 ……その頃、新生活に浮かれていて 聞かれること全部に 得意になって答えていた。 「お父さんとお母さんは 再婚したのは最近だけど 知り合ったのは高校生の時なんだよー。」 この一言で、周りは 略奪愛っ⁉︎ なんて 盛り上がってた。 違うって言ってるのに。 ちょうどあの頃、 不倫とか略奪のドラマが流行ってたからなー。 当時を思い出し ため息が出る。 『中学女子が、だろ。 この歳になって まだそんなことやる奴 いないだろ。』 大丈夫だよ、と 奈央が真面目な顔で言うから 3年くらいで そんなに変わる?と また 笑ってしまった。 音楽室近くまで戻ると ドアは まだ開いていた。 ミーティングが始まってるのなら 閉まっているはず。 『ありがと。落ち着いた。』 『一人で戻れる?一緒にいくか。』 『その方が目立つじゃん(笑)。 大丈夫、まだみんな片付け中だと思うし しれっと 戻る。』 「ん。じゃ。」と言い、 奈央は くるっと 背を向けて歩き出した。 ……よし。私も 。 大きく深呼吸して音楽室の中に 戻った。 色々言われる覚悟だったのに みんな ちょーーー 普通。 「ほら。咲良!椅子並べるの手伝って!」って 引き入れられた。 並べていると 羽奈が そーっと近付いてきて 何かと思えば私の耳元で 「ばーか。ばーか。」と言った。 ほんと、バカだ。私。 『うん。ごめん。』 『すぐ謝れるじゃん。 私じゃなくて ちゃんと謝りなね。 今日のは ナイよ。』 ……わかってる。 もうタイミングがないとか そんな 言い訳ダメだ。 その日の夜。 打ち上げをして、帰宅する時に お母さんにLINEして駅まで迎えに来てもらった。 『おかえりなさい。 咲良、今日、緊張してた? 吹奏楽部の演奏、スゴい迫力だったね。』 『ホントのお母さんじゃないって言って ごめんなさい。』 噛み合わない会話。 だけど、 これが今一番言わなきゃいけないことだから。 『ホントのお母さんじゃないけど ……そういう意味で……言ったんじゃ……ない。』 ヒックヒック しゃくりあげながら やっとのことで それだけ 言えた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加