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高校生になって 初めての中間テスト直前。 ホームルームの時 担任からの連絡事項が 子守歌に聞こえて 目を閉じてしまいそうになる。 それは みんな 同じだったらしい。 『休み明けで 遊び疲れが出てるのかー? 眠そうな顔ばっかりだな(笑)。』 担任は クラスを見渡し、 「よし!じゃあ、そのまま目を瞑れ〜。」 と言った。 『自分の記憶の中で 心がじんわり温かくなる風景を ひとつ思い浮かべてみろー。 成る可く 1番古い記憶から な。 ……何が思い浮かんだ?』 山と 青空! 夕陽が沈む海! 田舎のじーちゃんの家! 公園のブランコ!ハイジみたいなやつ! みんなが口々に答える。 が、私が 思い浮かべたのは そういう 風景では なかった。 ……泣きながら めいっぱい手を伸ばす たぶん 赤ちゃんの頃の 私、と 抱き上げる人、と もう1人。 『よしよし。 それぞれ思い浮かべたのは 本当の記憶だったり 美化されたものだったりするけど なんとなく 懐かしくて 心が落ち着かないか? 原風景って言うんだそうだ。』 担任は そう言ったけど 私は この 原風景 の話を聞いてから 何かが 心に引っかかっていて ずっと 小さく イライラ していた。 試験一週間前からは ほとんどの部活は休み。 だけど 吹部だけは 市吹奏楽祭が近いこともあり 1年生を含む全部員が フルで部活動をしていた。 朝練アリな上 帰宅すると 早くて19時。 遅いと20時を過ぎる。 お腹も空いて クタクタで。 帰ってから 試験勉強をするには かなりの気力が必要。 我が家では お母さんも よく仕事や勉強をリビングでしてる。 なんとなく そこで 一緒に勉強するのが 中学時代からの 習慣になっていた。 この日も お母さんの隣で 課題を広げ 分からないところは 聞きながら 進めていた。 が、食後の睡魔に負けた私は いつの間にか うたた寝してしまっていた。 浅い眠りの中、インターホンの音が聴こえる。 『お帰りなさい。ハルくん。』 『ただいま。 咲良は? え、寝てんの?』 『さっきまで お勉強してたんだけど……。 ちょっと疲れてるみたい。』 『部活もさー、今回は1年は出れないんだろ?』 お父さんが 部活より試験勉強しろって言う前に 飛び起きて 反論した。 『出れないから 部活 出ないとか! ありえないから!』 わざと大きな音を立てて 勉強道具を雑にまとめ イライラをぶつけながら 自室に引き上げる私に お母さんが フォローしてきた。 『そういう意味じゃないよ。 咲良の身体が心配なの。』 『……お父さんなんか 自分も学生の頃、全然勉強しなかったクセに。 成績、めっちゃ悪かったじゃん。』 良くない言葉。 今言う必要は無いと 理解しつつ言ってしまう。 そんな自分に嫌気がさす。 こんな捨て台詞吐いたって イライラは おさまらないのに。
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