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《困惑》
しばらく優しく扱われることなどなかった為、その優しく撫でる、布ごしの手に自然と身体を委ねる。
身体を拭き終わると、少し抱き起こし、新しい着物をそっと着せてくれる。
そのまま、横に優しく寝かせてくれた。
「……」
その人物がとても気になったが、近くにいるため眼を開けることはできない。
男は菊之助に布団をかけて、しばらくそのまま静かに見つめていたが…
不意に動く。
菊之助の頭元に近づいて、そっとかがみ、眠る表情を見つめる。
そして口許を隠している布を取り…
瞳を閉じて、そっと、唇を重ねてきた…。
優しくて、柔らかな温もり…久々に愛情を感じることができて…
しかしふと、我にかえる。
この人物は誰!?
「……っ!?」
はっと眼を開けてしまう。
そこに居たのは…
「っ…旦那様?」
頰被りの隙間から見えた顔は、この屋敷の主のものだった。
「っ!?」
男もハッと驚いてすぐさま離れ、背中を向けて頰被りで顔を隠す。
「あ、待って、ください」
そのまま慌てて男は、用具を抱えて部屋から出て行った。
一人残され、菊之助は混乱する。
「…なぜ、旦那様が?」
あんなに優しい口付け…いつもの旦那様ならあり得ないこと。
旦那様が自分を抱く時は口付けなんかしてくれたことが無いのに…。
けれど、こんな夜中に、自分を綺麗にしてくれて、微かだが愛情を感じることが出来た。
「旦那様…」
貴方は一体…。
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