砂場のある公園で

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砂場のある公園で

僕は石ころを蹴りながらふと気づく。 太陽が1番高いてっぺんを通り越して傾いてきた。昼でもない、夕方と呼ぶには早い時間。 ぼんやりと視界にベールを被せたような、まどろみの中の公園のベンチで、僕は待っている。 普段はそこにあるかどうかすら記憶に残っていないのに、人気が全くないこの時間には存在感を増す。背の高くて細長い柱の上の、まあるい時計。 まるで僕みたいだなと思いながら、さっきから幾度となく針を目で追っている。 あと2分57秒。 段々と緊張で体温が上がってくる。 僕は毎日、この時間に居合わせるために、学校には行かなくなった。 あと32秒。 手はじんわりと汗ばんでいる。 無意識に足のつま先も縮こまっていたみたいだ。 3、2、1。 まあるい時計が境目を溶かしながら発光する。まるで、もやがかかったみたいに。 目を凝らすと見えてくるんだ。 それは僕とぼくだけの世界でたった今ここにしかない時間。 僕が待っていたのは、 もう1人の”ぼく”だ。 もう1人の”ぼく”は光の中からゆっくりと右足を下ろす。 そして地面の感触を確かめながら左足をゆっくりと踏み出す。 見た目は僕と全く一緒。 だけど身体全体が薄柔らかな光に包まれていて、背中にはふわふわとした羽が生えている。 “ぼく”は音を立てずに ゆっくりと息を吐いて、言う。 「待ってるよ。 僕の未来で。」
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