インコレスポンス

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インコレスポンス

そのインコは、今日も夜中の3時に目が覚める…。 そのインコ曰く、脳を最も活性化させる時間に適しているらしい。 鳥にも体内リズムがあり、脳を爆発的に発達させるために自らがたどり着いた至極の瞑想時間帯…。 静かなる闇の中で、様々な世の理を理解し、答えを導き出していく… 『賢鳥タイム』 …………………夜は明ける…… 「オハヨー、オハヨー!」 黄色いインコは今日も鳴く…朝昼晩と関係なく、世間体を考えながら…。 「オハヨー、オハヨーグルト…!」 このインコは他のインコよりも格段に賢い…自分より賢いインコなど、この世に存在しないとの結論に至るまでの領域に到達している…。 ここではこの賢インコを主軸に物語を進めていく…。 雄のインコなので、彼と呼ばせてもらう…。 彼は、テレビが大好きである。ご主人様もテレビが大好きで、毎日のようにテレビはつけっぱなしだ。 ご主人様は、どこにでもいそうなごく普通の専業主婦…。家事をこなしながら、リビングの4K対応型テレビは作動しまくり…ボリューム上げすぎ…。 ニュースから、連ドラ、スポーツ、バラエティ、音楽、教養、テレビショッピングなど、全ジャンルを鑑賞するご主人様には自身に幅広い教養を学ばさせてくれたことに感謝する…。 しかし、製作側の瞬時に魅せるインパクト力が滲み出るコマーシャルメッセージになると、リモコンをパチパチ変えるのは止して頂きたい…。 ゴールデンタイムに国営放送ばかり、見るのも…。民放…が恋しくなる…。しかし、まぁ…朝や昼に放送している連続小説ドラマは面白い…!ヒロインがいつも可愛いくて、演技が聡明…視聴率を手堅くげっちゅ…受信料ちゃんと払ってそうだな…ご主人様は…。 …彼は…とにもかくにもテレビによる知識を隅々まで会得し、喋れる言葉は数万パターン…いや、喋れるだけではない…! 彼は物事を瞬時に捉え、考え、選択しながら言葉を発することができる…。ただ単に周囲の言葉を真似して、復唱するようなことは決してしたくはない…と考えている…。 『だって…わたしは天才インコだから!』 令和の時代も頭脳明晰で…羽ばたいて見せる!しかし、彼は困ったことに学習した全能力をご主人様に披露することができない…。 それは、ご主人様の性格にも起因するが…幾度となくみてきたワイドショーが防御壁となって、自身の個性に蓋をする…。 パシャパシャ…! 画面から溢れ出る…カメラフラッシュの稲光…眩しいのは大嫌いだ…。 『どうして…そんなことしたんですか?』 『◯◯って本当ですか?』 『噂の恋人と熱愛発覚ですが、結婚は?』 『すみません、一言いただけますか!』 …有名人になっただけで…ここまでのプライベートを根掘り葉掘り…些細なことでも大袈裟に報道する…事実確認がまだ為されてないにも関わらず…拡散される情報ネット…。 耐えられるはずがない…! ご主人様は間違いなく、高額の取材費・動画使用料を踏んだくり、彼のことを売り物にするに違いない…! 『金の成るインコならぬ…キンコ(金庫)!』 こんな見出しは想像しただけで、鳥肌がたつ…。鳥だけど…。 …悩みはまだある…確かにご主人様には今まで育てて頂いた感謝は多いにある…が、テレビからの情報だけでは物足りなさを感じる今日この頃…百聞は一見に然ず…! 彼はこの閉ざされた空間から、外の世界へ飛び出したい…! いや…でも…だめなんだ…。安心安全を考えると、死期が来るまでここに居住するのが妥当かもしれない…。外敵との利権争い…食料困窮問題…気温の乱れ…大気汚染…糞に憤慨する人間たちの叫び…知能が高いから故に…心配性…。野生本能的な思考は既に消失…彼は恐怖を肌で感じてしまう…のだ…。 だから…彼は…これからも演じていく…セオリー通りの言葉を何度となく…。 ……今夜もまた、レギュラー番組のクイズショーが生放送される…。そう…何を隠そう!彼はクイズが大好きなのだ!一番好きな番組といっても、過言ではない。 自身の今まで蓄積していた知識を思う存分に振りかざすことができるから…! 心の中で答える…だけだが…。 できれば、口に出して、ご主人様と一緒に考察したい…!が…我慢…だ。。 クイズ好きは、ご主人様も一緒…。芸能人たちが争う番組や賢明な輩たちと勝負を繰り広げる番組などが数多くある中…ご主人様はこれが大好きだ…!一般参加型のクイズショー! …1問目から徐々に難易度が上がっていき、10問クリアすると、見事100万円をゲットできるのである…。そして、なんと…今宵この番組に参加するのは…ご主人様の最愛なる旦那様であった…! 簡単な予選テストはあるものの、肝心なのは…家庭の背景…番組ウケである。趣味が高じて、借金してまで、購入しまくった銘柄ワイン…数百本…。しかも、旦那様はお酒が飲めない…ご主人様はカンカン…借金返済の為にも…。。 オーディション突破成功!! 『ガンバレー!』という…視聴者の愛撫心をくすぐるような、彼の応援字幕カットが挟まれ…クイズ開始前のご家族紹介映像が流れ終わる…。 テレビの中の旦那様は司会者の質問に、いやぁー…アハハ…と素人さながらの緊張丸出し対応…。 …ご主人様はドキドキしながら、画面に魅入っている…。勿論、録画中…。そして…クイズは始まった…。 彼もまた生唾を飲みながら、見守る…。 「それでは準備は宜しいでしょうか?鳥見さん…」 クイズ構成は、全て四択問題…シンキングタイムは、生放送なのできっちりとシビア。獲得できるのは0円か100万円! …途中で自信がなかったり、分からなかったりした場合は…ディステニーライン(運命の繋がり)を使用することが可能だ…。 ・アナザージャッジメント 視聴者に正解だと思う選択肢を選んでもらう。 ・ハーフ&ハーフ 選択肢が半分…2つになる。 ・ファミリーテレフォン 家族に電話して相談できる(60秒)※スタッフが待機してるので、検索などは不可能。 以上、3つが使用可能である。 1問目…2問目…次々と難なく正解していく…!? 5問目までは、番組構成上…なんとかいけるような仕組み…。 インコの彼も心の中で全問正解中…。問題は…6問目からである…。 ちなみに…触れてはいないが、挑戦者の旦那様…運悪く、苦手問題が続いてしまったのか…ディステニーラインのアナザーとハーフの2つを使用済み…。 危機的状況…。 6問目の問題が出題される…。悩む…旦那様…それを、両手で組みながら、祈る…ご主人様…。 思考放棄…。司会者の否応なしの「アンサードーン!」が入る…。 眉間にシワを寄せて、深く考え込む…旦那様…。 彼は…堪えきれず…『3番…!』と言葉を放ってしまった…! んっ…?ご主人様、スタッフ一同…びっくり目線でインコの彼を見つめる…。テレビの旦那様は、迷った挙げ句…3番を選択…。 司会者が顔を舐めますように溜める…。 「正解!」 『やったー!…あっ…』 やってしまった…インコミステイク…。回りの表情が…恐ろしく…怖い…。回答者…旦那様の…偶然な当てずっぽう…たまたま…的中…正当番号…。彼の口にした正解も…たまたま…かな。 妙な余韻を残しつつ…次の問題に進む…。7問目…。さぁ、ここからは問題が更に難しくなってくる…煽る司会者…青ざめるインコ…。 問題が出されたと同時に、旦那様は…諦めきったような表情…。いやいや、最後まで頑張れよ!…と彼は心の中で、強く思った。 「最後のファミリーテレフォン…使いますか?」 「はい…使います…。」 無難なやり取り…台本通り…簡単には取らせてくれない100万円…。最後に使うは無駄あがき…散りゆく運命知りうるも…笑って終わろう…家族の絆…番組向上委員会…! 4分の1の直感は…意外と外れる…世知辛さ…。しかし、まだわからない…。 そんな彼は答えが分かってしまっているのだが…。 問題はコチラ…。 【7問目】この中で、イネ科ではないものはどれでしょうか? ①サトウキビ ②トウモロコシ ③タケ ④イグサ 画面に表示される問題に、ご主人様は頭を抱える…。 「分かるわけないでしょ…!」 はっきりいっての絶望感…ファミリーテレフォンを使ったところで…誰もわからない…。彼1羽を除いては…。 いよいよと…挑戦終了か…。テレビ局からの電話が入る…。スタッフが電話をご主人様に渡す…。司会者とご主人様のテレビ電話形式のやりとり…。テレビ画面の小窓に映り込む我が家…。夫婦それぞれが運命の電話機を握る…。 「…それでは…時間は60秒です!ファミリーテレフォンスタート!」 その刹那…ご主人様がチラリと…彼の方を見る… 「全く分からないのよねー…だから、うちの家族の一員である、幸せを呼ぶ黄色いインコのパインちゃんに回答を委ねようと思うの…さっきも当てたのよ…ウフフッ…」 ここで…ほじくりかえしてくるとは計算外…普通は無理だが…彼には回答可能だ…。しかし、その後のことを考えると…でも、当てたい!言いたい!家族の為になるのなら…。 葛藤を繰り返しながら彼は喉元が苦しくなっていく…。旦那様…司会者…観客…スタッフ…視聴者全員が、カットできない生放送のその発言に…ワハハハ…と笑っていることだろう…。 適時に…正解を喋るインコがどこにいる…。番組的には面白いかもしれない…。が…彼は…究極の苦しみを味わっている…。時間は刻一刻と儚く過ぎていく…完全に委ねられた…決定権…。 「パインちゃん…間違っても怒らないから…早く正解だと思う番号を言って…!さっきみたいに…!」 非現実的な懇願…彼が人間だったら…即座に答えるだろうが…。テレビを前にする全国民が…彼の言葉に注目する…今か今かとばかりに…瞬間最高視聴率を記録するかのような…好奇な期待感…。 『…いっ……あっ…がっ…お…は…ます…』 ここで、期待を裏切り…生活言葉反復インコを演じるか…それとも…家族のため…自身の誇りのために…正解を導き出すか…。 「パインちゃん…早くっ!」 彼は身体中が震えだし…呼吸がまともに出来ない状態に達した…思考を停止させたい…この場から離れたい…死にたい気分…彼はこの緊張から解き離れたかった…だからこそ…出た言葉であった…。 『…ぐぅ…ぐ…る…ぢ…もぉ…ご…ろ…し…でぇ…』 誰も…彼を責めることはできない…。 「モ…モロコシ…!②番のトウモロコシが正解みたいよ…!お父さん…!」 プツッ…ツーツー…。 電話が切れる…。時間切れ…。 「さぁ…パインちゃんの言葉を信じて、選ぶのでしょうか?さぁ、鳥見さん!運命の選択…!正解は何番でしょう? アンサー…ドーン!!」 司会の煽りと共に…旦那様は…ゆっくりと答えた…。 「……②番のトウモロコシ…で!ふぁいなぁぁるぅぅ…どーん…!!」 …彼には…もぉ…何も認識できなかった…最後に受容した光景は…ご主人様、その旦那様が…あぁーっ…という微かな声とともに、項垂れてる姿であった…。 彼は鳥籠の中で、口から泡を吹き流し…苦悶の表情のまま…息を引き取った…。 彼の夢は羽ばたくことなく…瞬く間に…終焉を迎えた…。 期待感をもっていた令和の時代に、教わるべきこと…礼はなく…。 【完】 ※因みに、正解は4番のイグサ。あとは、イネ科です。
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