嘘と疑念

1/5
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

嘘と疑念

「まぁ、お茶ですよ陛下。一息つけということですわ」 厨房の人にお茶を運ぶように頼まれ、陛下の自室へと向かうとそこには葉月がいた。 「お茶を飲みたいのはお前だろう」 「あら、私が狙っているのは茶菓子の方です」 溜息をつく陛下に葉月が笑っていた。 何故だか自分が場違いに感じた。さっさと用事を済ませて出て行こう。 茶碗にお茶を注ぐと手を伸ばしたのは葉月の方だった。 「お毒味です。いただきますね」 「適当なことを。自分のをもらえ」 ふふ、と笑いながら葉月がお茶に口をつけた。 次の瞬間、喉を抑え、咳き込み、吐き出した。呻き声を上げながら尋常じゃないほど苦しんでいる。 倒れ込んだ彼女を支える陛下が俺を見た。 「俺じゃない」 この状況でよくそんな言葉が出てきたものだと自分でも驚いた。 「陛下!どうかなさいましたか!」 「離れてください!危ないです!」 丁度部屋の前の警備をしてた兵士が二人、入ってきた。 どうっと押さえつけられ、床に身体を打ち付ける。 現状が理解できない。 毒が盛られていたのか?いつ?誰に? 俺じゃない。ならば俺に茶器を渡した厨房の奴か? 陛下が狙われている……-- 「離せ!俺じゃない!陛下、誰かがあなたを狙ってる!」 押さえつけてくる兵士の腕を払いのける 葉月を抱えたままの陛下がこちらを見た。 「話は後で聞く」 冷たい眼差しだった。 手枷を嵌められ、猿轡を噛まされ、そのまま地下牢へと連れて行かれた。 鉄格子の中に入れられ、見張りの兵士が一人つけられる。 あまりにも突然のことで理解が追いつかない。 俺は今、陛下に毒を盛ったと疑われているのか。 俺じゃない。けれど、誰が犯人か分からない。 この状況で一番疑わしいのは俺だろう。新参者で陛下に父を殺されてる。動機は十分だ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!