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嘘と疑念
「まぁ、お茶ですよ陛下。一息つけということですわ」
厨房の人にお茶を運ぶように頼まれ、陛下の自室へと向かうとそこには葉月がいた。
「お茶を飲みたいのはお前だろう」
「あら、私が狙っているのは茶菓子の方です」
溜息をつく陛下に葉月が笑っていた。
何故だか自分が場違いに感じた。さっさと用事を済ませて出て行こう。
茶碗にお茶を注ぐと手を伸ばしたのは葉月の方だった。
「お毒味です。いただきますね」
「適当なことを。自分のをもらえ」
ふふ、と笑いながら葉月がお茶に口をつけた。
次の瞬間、喉を抑え、咳き込み、吐き出した。呻き声を上げながら尋常じゃないほど苦しんでいる。
倒れ込んだ彼女を支える陛下が俺を見た。
「俺じゃない」
この状況でよくそんな言葉が出てきたものだと自分でも驚いた。
「陛下!どうかなさいましたか!」
「離れてください!危ないです!」
丁度部屋の前の警備をしてた兵士が二人、入ってきた。
どうっと押さえつけられ、床に身体を打ち付ける。
現状が理解できない。
毒が盛られていたのか?いつ?誰に?
俺じゃない。ならば俺に茶器を渡した厨房の奴か?
陛下が狙われている……--
「離せ!俺じゃない!陛下、誰かがあなたを狙ってる!」
押さえつけてくる兵士の腕を払いのける
葉月を抱えたままの陛下がこちらを見た。
「話は後で聞く」
冷たい眼差しだった。
手枷を嵌められ、猿轡を噛まされ、そのまま地下牢へと連れて行かれた。
鉄格子の中に入れられ、見張りの兵士が一人つけられる。
あまりにも突然のことで理解が追いつかない。
俺は今、陛下に毒を盛ったと疑われているのか。
俺じゃない。けれど、誰が犯人か分からない。
この状況で一番疑わしいのは俺だろう。新参者で陛下に父を殺されてる。動機は十分だ。
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