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「植尾さんはいるのか?」
腹は立つがAIのi植尾さんをここは頼る。利害の一致は少なくない。
植尾さんは元々我が家の管理をしているAIだし、悠を最優先に守ってくれる。そこは信頼している。
「ここにいる」
悠がリュックを揺らし、そこからちょこんと顔を出しているクマのぬいぐるみを見せた。
俺が幼い頃に母からもらったクマだ。悠はそれを見つけ、監視カメラとスピーカーを取り付け、通信でつなげて植尾さんクマと名づけた。
植尾さんの本体は家にある。悠は家を管理しているAIに手を加え、お掃除ロボットに乗せた。はじめはそちらの植尾さんを持ち歩いていたが、さすがに持ちづらかったのか植尾さんクマに改良した。
長年αとして振る舞っていただけあり、悠はΩだったがものすごく賢い。いまだに自分はΩではなくαだと言い張っている。
俺は検査でαだとわかっている。α同士の男の恋愛はありえない。発情期のある悠はΩなのだが……。それに俺たちがツガイであることは間違いがない。
でも、たまに悠の言う通りかもしれないと思うことがある。成績は俺の方がいいが、悠のような独創性はない。いくらヒマだからと、AIを掃除機ロボットやクマのぬいぐるみに乗せるとか想像もつかない。
悠はほとんどαの進学校で、トップクラスの成績だった。それに、学校側も、Ωが進学校にいたことを隠したいらしく、悠はαという体にしてある。
悠によって改良された植尾さんは、悠を守るボディーガードとして力を発揮している。俺を主人として認めてはいるようだが、俺は『かいとサン』で悠を『悠サマ』と呼ぶ。植尾さんにとって悠は『創造主』らしい。
悠はAIすら魅了してしまう。
Ωとはホントは恐ろしい生き物なのではないか? と悠を見ていると思ってしまう。
クマのぬいぐるみを持ち歩く悠は、破壊的に愛らしい……。それはΩだからなのか、俺のツガイの悠だからなのかはわからない。
わかっているのは、悠はとにかく愛らしい。
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