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妹のクルミについて
「ボク、家に帰るから」
不機嫌そうな悠の声。
学校から悠の家へ向かうために乗り換える駅のホーム。わりと大きな駅で、ここで俺の家と悠の家は違う方向になる。
列車が来るまで、悠は最前列で待っていた。最前列と言っても、後ろに並んでいる人はいない。
人がいないわけではなくて、ホームドアの閉じられた扉ごとに人が待っている。朝はもっと混むが、夕方の駅はほどほどに空いていた。
悠はサイズが小さかった俺のパーカーのフードを目深にかぶってうつむいている。そして、悠が乗る列車が入ってくるアナウンスが流れると、こちらを向いた。
ちらりと見えた目が俺の目と合う。
口を開け、何かを言いかけるが、悠は何も言わずにうつむいた。
「人相、悪すぎ……」
顎に触れ、こちらを向かせる。
睨み付けてくる様子は、質の悪いストリートキッズのようだった。
怒ったように手を払い、線路の方を向く。そして、俺が言うことを気にしたのか、むっとはしていたがフードを外した。
細い腕が下ろされ、Ωらしい姿が現れる。
不貞腐れてはいる。だが、シャンプーの香りがする柔らかい薄茶の髪。愁いを含んだような色素の薄い茶色の瞳。
線が細く、愛らしい顔。
同じ高三には見えない。
しかも、そのたった一つの動作で空気が変わった。性別不明な精霊のような少年は、老いも若きも男も女も、全ての人間の視線を集める。
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