世界を変える大発明

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 あるところに、『世界を変える大発明』をしようと研究している男がいました。  何故、彼がこのような研究をしているのかといえば『金』のため。昔から、研究一筋で生きてきた科学者である彼にとっては、これこそが最善の稼ぎ方法だったのである。  そんな男が遂に、念願の大発明をして莫大な金を手に入れたのだという噂が流れた。  そして噂を聞きつけた彼の旧友は、これはシメたと考えて、ちょっと奢ってもらおうと彼の家へと遊びに行ったのであった。 「やあやあ、久しぶりですね友よ。遠路遥々よく来てくださいました」 「ああ、懐かしいな我が友よ。しかし、豪華な家に住んでいるじゃないか。大金持ちになったという噂は、どうやら本当だったらしい」 「まあまあ、立ち話もなんですし中に入って話しましょうか」  男に言われて、旧友は家の中に入っていく。彼は、男に案内された座り心地の良いソファーへと腰を埋めた。 「さて、それにしても噂は聞いてるよ。凄い大発明をしたそうじゃないか」 「ええ、それはもう。おかげで、科学者界では私の名を知らぬ者は居なくなりました。それどころか、一生かけても稼ぎ切れないような大金まで転がり込んできたのです」 「ほう、それは凄い。なら、僕にも少し恵んでくれないかい? ここのところ金が要りようでね」 「構いませんよ。欲しいだけ幾らでも分けて差し上げましょう。私にはそれだけの財力がありますから」  願っていた通りの結果となって、旧友は男の前で顔がニヤつかないように気をつけながら、それでも心の中では大変喜びました。 「それにしても、何故そんなにお金が必要になったんだい? 僕が憶えている限り、君は守銭奴では無かったと思うんだが」 「実は、僕には好きな女性が居たんです。その女性は、お金を沢山使う事に喜びを感じる人でしてね。しかし、どうしても恋仲になりたかった私は、大発明をしてお金を稼ごうと考えました。そして大成功し、彼女ともめでたく結婚する事が出来たのですよ」  男は、恋い焦がれていた女性との幸せな結婚生活について嬉しそうに語り続けた。  しかし、旧友はそんなノロケ話には興味がない。大体、夫の金で豪遊するような穀潰しなど、彼からしてみればとても好きになれるような女性ではなかったのである。  そんな事より、旧友が興味津々だったのは『金』でした。 「あーあ。僕も凄い大発明をして、大金持ちになりたいなぁ〜」 「……実は、そんな貴方に良い情報があるんですよ」  そう言うと男は、金庫の扉を開くと中から紙の束を取り出した。 「これは、私が『世界を変える大発明』を研究していた際に併用して導き出した研究レポートです。まだ未完成ですが、これを貴方がまとめて成果を出せれば同じくらいの大金が手に入るでしょう。これを貴方に差し上げますよ」 「な、なんだって! 我が友よ、本当にそれをくれるのかい?」 「はい。私はもう、十分なくらいお金を手に入れられましたから」  旧友は、その研究レポートを受け取り、家に帰って改めて中身を読んでみる。  今では道を違えてしまったが、彼もかつては男と共に科学者になろうとしていた過去があり、ある程度の科学的知識はあった。その知識から察するに、確かにこのレポートを更に研究していけば、とんでもない大発明が出来ると旧友は思いました。 「よし! 早速、研究を始めるぞ! でも、僕は大切なお金を湯水のように使う女なんかのために頑張らない。自分のために頑張るんだ!」  旧友は、そう心に誓って研究を続けていった。  数年が経ち、旧友は男から貰った研究レポートを完成させる事が出来た。彼の元には莫大なお金が転がり込んできた。  しかし旧友の行動はこれにとどまらない。彼は、更にお金を手に入れるために会社を立ち上げたのである。これが大変に儲かり、大勢の人を雇い会社を拡張していき、とにかくお金を使ってお金を稼ぐ、そんな繰り返しの日々を過ごしていった。  そして遂に、旧友は世界一の大金持ちになった。富も名声も、彼より勝る者は誰一人居なくなったのである。  ただ、その頃には旧友もすっかり老人。次第に体を弱らせていった彼はやがて倒れ伏し、今ではベッドで横になり点滴を打たれる入院生活を送っていた。 「やれやれ。お金は入ったが、これでは何も出来ないじゃあないか。働き過ぎて健康に気を使わなかったのがいけなかった。それに、入院しても見舞いに来るのは金目当てのハイエナばかりだし。類は友を呼ぶというが、全くその通りだ。まあ、あんな奴らとしか人間関係を結んでこなかった僕が悪いんだが」  旧友は死ぬ間際、自分の人生を振り返って後悔を感じていた。恋人どころが親しい友人すら居ない人生。昔々に会ったあの男とも、あれっきり一度も顔を合わせてはいない。 「そう言えば僕に研究レポートをくれたあの男。噂によれば嫁さんと子供達、そして孫達に囲まれて幸せな余生を過ごしているそうだ。僕も家族を持っていたら、死ぬ瞬間でも人に囲まれながらあの世に逝けて、幸せだったのだろうか? 僕にはお金しかない。でも、お金はあの世に持っていけない。全く、ままならないものだ」  旧友がそんな事を独り呟いていると、入院室にナースが入ってきた。 「診察の時間です。お体を動かしますね」 「やあ、ナースさん。診察などしなくても僕はもうじき死ぬよ。それよりも、僕が死ぬまでの間、一緒に居てくれないか? もし、君が僕の最期を見届けてくれるというのなら、僕の全財産を君に譲ろうじゃないか」 「申し訳ありませんが、私には仕事があります。とても大切な、人を助ける仕事です。例え沢山のお金が手に入っても、私にとってこの仕事はそれ以上に価値があるものなのです」 「ははは。それはそれは、素敵な事だ。その想いを大事するといい」  ナースは、今日の旧友の診察を済ませていき、そして入院室を出ていった。 「やれやれ。振られてしまったよ。お金を湯水のように使う女は嫌いだが、好きな女にはお金では靡かないときたものだ。僕は、お金の『円』はあったが、女の『縁』は無かったという訳だな」
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