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「こんな感じなんだけど、シエラはどう? リアに合わせられそう」
シエラはきょとんとして見せて、唸るように「うぅーん」と悩ましい顔。
「私、基本的には薬草学しか出来ないので、攻撃となるとこれくらいしか出来ないです」
そういうと、駆け足で私達の横を通り過ぎて、誰もいない空間に赤い粉を撒いた。
「灯火」
シエラが唱えたのは、家庭級の火属性魔法。
どんなに強く魔力を込めても、掌大の炎を出せる程度。
それが赤い粉に触れた瞬間、粉から粉へ火が移り、爆炎へと変化する。
それは広範囲の通常級魔法となんら遜色のない威力。
「凄いよ! シエラ、それどうやるの!」
「これは引火性の高い乾燥させた薬草と、爆発性を持ち合わせる火薬草を調合した粉に、火属性魔法を加えて、爆発させるだけの手品です」
「手品で人、殺せるで、これ」
シエラは薬草学を応用した攻撃手段を見せた。
通常、薬草学とは、魔力の増強や肉体強化などに用いられるが、これは明らかに魔法をタネにして、魔力なしにその威力を飛躍的に上げている。
エルフの賢者に劣らない叡智のなせる技である。
「遠距離にはむかんけど、罠とか細工にはもってこいやね」
「ほんとほんと! 器用だよね」
「そ、そうですか……?」
自信なさそうに照れるシエラの肩をリアが抱き、私は掌を掴んで振り回す。
シエラは目を回してながらも、嬉しそうに笑顔を見せた。
「あっ、ところであの刀、どうする?」
オーガが握りしめている刀。
魔力を無効化するそれは私達、魔導師にとっては無用の長物。
「んー。売るくらいしか思い当たりませんね」
シエラから出た言葉に「現金な子やわぁ」とリアが冗談混じりに弄る。
リアにも気に入られた様子に、私はほっと胸を降ろした。
「そいつはおれの獲物だぜ」
突然、後ろから声がするが、聞き覚えのある声。
「あれ? クィールさん?」
「げげげ! あのときの女!」
私が氷漬けにした剣士。
つい最近のことだったのに、存在をいままで忘れていたなんて言えない。
「いや、今のはなしだ……ていうか、お前達、学生だろ!? なんで外界に出てきてんだよ!」
「んー。内緒」
「内緒ってなんだよ!」
何だか1人で空回りしてるのを、私達はくすくすと笑っていたが、シエラの目がとても冷たく凍りついていた。
ダメなタイプなのかな?
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