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留置室は初秋と言う事もあり肌寒かった。鉄格子の並ぶ廊下に一歩踏み入れた瞬間に鳥肌が立つぐらいだった。岡田俊行はそこの入り口に立っていた巡査に尋ねた。
「参道求はどこに入れてある?」
「はっ、一番奥であります」
「あいつ、どうだ? 元気が無いとか取り調べ中に心折れてるとか無いか?」
「疲れてはいますが、何を聞かれてもひょうひょうと躱してますね」
「そうか、ありがとう」
岡田俊行は留置室の奥に歩を進めた。一番奥の房の前に着くと畳の上で正座をして何やらブツブツ呟いている参道求がいた。
「何ブツブツ呟いているんだよ」
「ああ、岡田くんか……」
元気の無い声で参道求は言った。目の下に隈が出来ており、無精髭もポツポツと生えており、疲れている様子だった。
「やつれたな」
「元が細いからね…… それよりここ案外快適だね」
「皮肉は聞きたくないぞ」
「いや、ずっと一人で静かな空間だからネタが湯水のように湧いてくるんだよ。拘置所暮らしだけで一本書けるぐらいだよ」
「逞しいな……」
岡田俊行の心境は呆れる反面、元気だと言う事が分かって嬉しかった。
「で、どうしてここに来た? 笑いに来たのか?」
「いや、気になることがあって」
「ひょっとして連続放火事件に辿り着いたか?」
岡田俊行は心から驚いた。まるで今日一日一緒に捜査していたかのような答えに驚いた。
「え? どうして分かった?」
「取り調べの時に「何であんなモン作って焼死させた?」ってしつこく聞くのよ」
「確かにジャンヌダルクの火刑台みたいなもの作ってまで焼死させた事は気になるわな」
「焼死させるだけなら普通にガソリンぶっかけて燃やせば終わる話じゃないか、それを何であんな手間のかかるモン作ったのかってしつこいのよ」
「放火の罪は火刑。歌舞伎にそんな話あったよな?」
「八百屋お七な、恋人に会いたい一心で放火したって話」
「これと同じ様な事を今回の犯人がしたとしたら」
「放火事件に関しては犯人捕まってるけどな。僕もだけどそう思ってる奴は少ないぞ」
「どういう事だよ」
「あの放火事件なぁ……」
「食事だ」
いつの間にか刑事が岡田俊行の後ろにいた。刑事が持っているお盆の上には冷やし中華とマヨネーズが乗っていた。
「ああ、来たのか」
「全く、ここに来て冷やし中華注文した奴なんて初めてだぞ」刑事は呆れ気味に言った。
「今年まだ食べて無かったんですよ、そうめんばっかりだったんで」
「岡田刑事、これから食事の監視がありますので」
割り箸や割れた皿でも十分に自殺は出来る、その防止の為の食事監視であった。長袖シャツやズボンやネクタイでの首吊り自殺も出来ないように徹底的に引っ掛ける場所は排除されていた。その自殺防止の為のギミックに関して参道求は感心していた。ただ、鉄格子に引っ掛けると言う事を考慮してないのか、入り口の監視で防止の意味を成しているのかという疑問はあった。
「じゃあ、俺帰るわ」
「放火事件の事を調べるなら黒石に聞いて、あいつゴシップ誌時代にこれ調べてたんだよ」
それを聞いて岡田俊行は拘置室を後にした。
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