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 岡田俊行は署に着くなりに捜査本部がある会議室に駆け込んだ。いつも使っているホワイトボードには参道求の写真に「容疑者?」と書かれていた。 「どういう事ですか警部!」 岡田俊行はホワイトボードの前に座っていた渡辺警部に詰め寄った。 「落ち着け! ニュースを見た市民から匿名の通報が何件かあってな……」 「匿名の通報? 目撃情報か何かですか!」 「目撃情報では無く昨日のTV番組で共演した時に雰囲気が悪かったからそれを恨みに参道求が殺ったんじゃないかって通報があったんだよ」 「それを真に受けて参考人として呼んだってことですか!」 渡辺警部は困惑したような顔で頷いた。 「そんなのただの思い込みじゃないですか!」 「だがな…… 今回は捜査を急がないとな……」 「相手が国会議員だからですか!」 「そうでも……」と、渡辺警部が言った瞬間に捜査本部の扉が「バン!」と、思い切り開かれた。その瞬間にそこにいた全員が扉に向かって敬礼をする。岡田俊行だけは何が何だか分からずにその光景を見つめる事しか出来なかった。開かれた扉の先には一人の白ひげを蓄え、茶色の紋付袴を身に纏った老人が杖をついているのがみえた。その杖のデザインは一度見たら忘れないようなものであった。杖の握りが金の鶏の装飾である。 「市長! 本日はこんなところまでご苦労さまです」 「あれがうちの市の市長なのか」岡田俊行はそんな事を思っているといつの間にか後ろにいた稲葉白兎に腕を引っ張られて部屋の隅の方に連れて行かれた。 「何してるんですか! 早く敬礼です!」 そう言われて岡田俊行は敬礼のポーズを取った。稲葉白兎もピシッと直立不動の体勢で敬礼を行っていた。 「ええよ、皆のもの休め」 それと同時に捜査本部にいた全員は敬礼の体勢を解き、着席した。岡田俊行は敬礼の体勢を解くと同時に稲葉白兎に耳打ちをした。 「何だよあの爺さん」 すぐに稲葉白兎も耳打ちを返す。 「うちの市の市長の長秀平介(ながひで へいすけ)なんですけど、元総理で絶対的な権力を持ってるんですよ。下手したら今の総理の権力なんかカスみたいなもんです」 日本のフィクサー。長秀平介はこう呼ぶに相応しい男であった。30年前のバブル崩壊でデフレが進行し、経済格差も広がり、少子高齢化も止まる気配が無く、他国の武力を使わない侵略により日本は亡国の危機を迎えようとしていた。これらを全て解決したのがこの長秀平介であった。日本国民は彼を歴代最高最強の首相と称した。日本国が彼の好きに何でも出来ると言った状況になったところで「愛知県への首都移転計画」を提唱し、あっと言う間に日本の首都は東京都から愛知県となり、愛知県は中京都となった。それと同時に首相を辞任し、同時期に行われた晴日市長選に出馬。8時00分コンマ01秒で当確が出るぐらいの茶番とも言える選挙であった。
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