チクタク、チク――――

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チクタク、チク――――

「えっと……、あなたは?」  ちょっと自意識過剰かもな――そう思って振り向いたのに、後ろにいた彼は、まっすぐにわたしを見上げていた。  ひと目見た感じ、可愛らしい男の子だった。クリッと丸い、無邪気そうな両目がキラキラ眩しかったし、どこか華奢にさえ見えてしまうくらいに小柄で身軽そうな身体から元気な声を発しているその姿は、なんとなく小動物のようにも見えて、初対面なのにどこか庇護欲をそそられる。  年齢は十代前半くらいに見える。もしかしたらまだ小学生くらい? でも声変わりしてるみたいだからもうちょっと上なのかな……。そんなことを思っていると、男の子は軽く首を(かし)げながら、「あの……なにかまずかったですか?」と尋ねてくる。 「あっ、ううん! ごめんなさい、そういうわけじゃなくて……! え、えっと、ごめんね、君はわたしに声をかけてくれたの?」 「そうですよ?」  事も無げに答えを返してくるその子に、わたしはいよいよ何が何やらわからなくなってしまった。だって、わたしはこの男の子とは初対面のはずだし……何かドッキリ番組の企画とか? それか、はぐれた家族を探してる、とかかな。  けど、別にわたしそんな人捜しとかで役に立てることなんてないし……そう思ったりしながら、なにか話す言葉を探していると。 「用というか、いま話ができるの、お姉さんしかいないから声をかけるしかなかったんですよね」 「えっ?」  そう言われて周りを見ると、いつからそうなっていたんだろう、周りの人たちがみんな、ピタッと動きを止めてしまっていた。ますますドッキリ企画っぽい……という疑いじみた気持ちは、近くの子どもをみたときに消えた。というより、消さざるをえなくなった。  近くのコンビニでアイスクリームを買って食べていたところを、どうやら何かに(つまず)いてしまったのか、転んでアイスを手放してしまっていたみたいだった。わたしも小さい頃はたまにやってしまっていた、不幸すぎる事故。  けど、転んでしまいそうな体勢のまま止まっていたり、そのうえ宙を舞うアイスがそのまま空中にピタッと止まったままなんて、普通ならあり得ない。  え、なにこれ?  なんか、変な夢でも見てるの? もしかしたら、今朝からずっと夢……なんていうのはさすがに都合よすぎるか。  ぼんやりと状況を把握し始めたわたしに、男の子は「ね、お姉さんしかいないでしょ?」と、ちょっとだけ困ったような顔で口を開いた。それから「あっ、忘れてた!」と慌てたように自己紹介を始める。 「僕の名前は成沢(なるさわ) 有栖(ありす)です。えっと、たぶんしばらく行動を共にすることになると思うから、アリスって呼んでください」 「え、行動を共に?」 「そうです。今ここがこんなことになってる理由も、その犯人もなんとなくわかってるんで、捜したいんですけどね? ちょっと、そのお手伝いをしてほしくて……」 「えぇぇぇ?」  そんなの聞いてないんだけど!  どんどん進んでいく流れに、目が回りそうだった。
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