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ティータイムは続く
「つかまえた」
「えっ……?」
いきなりのことだったからか、有栖くんは目を泳がせて困ったような顔をしている。心なしか顔も赤くなっているように見えたけど、体調がよくないのは彼の方だったりして……。
雨が降りそうなくらい曇ってるし、この時期にしては少し肌寒い日だから心配になったけど、だからこそ、もう終わりにした方がいい。
「い、いいいきなりなんですか? えっと、つかまえた、って、あの……!」
「ねぇ、有栖くん?」
「へ?」
「鬼ごっこのこと、誰から聞いたの?」
「あっ……」
黙り込んでしまった有栖くん。たぶん、本当に心配してくれたから、つい口から出てしまったんだと思う。そういう優しい気持ちに付け込んでしまうようでなんとなく嫌だったけど、気付いてしまったから。
わたしは、有栖くんが来たとき、物思いに耽ってしまっていたから、離れていた間の話を全然できていなかった。だから、有栖くんが知っているはずはない――時計ウサギくんとしか、鬼ごっこの話はしてないから。
「あーあ、叶さんのことだから、気付かないでタッチできるかと思ったんですけど……。あっさりバレちゃいましたね」
頭を軽く掻きながら、困ったような笑みを浮かべる有栖くんの顔を見て、言わずにはいられなかった。わたしが、この時間が止まった空間にいる間ずっと感じていたこと。
「ねぇ、有栖くん。苦しくならない、ひとりって?」
「――――、」
その瞬間の有栖くんの顔は、すごく悲しそうに見えて、すごく怒っているようにも見えて、見ているわたしまで胸が苦しくなるような顔をしていた。背中を向けてどこかへ行こうとする有栖くんに、「待って、」と言葉を続けようとしたとき。
振り返ってわたしを見た彼は、たぶん今日見た中で1番寂しそうな顔で言った。
「わかってくれない集団の中にいるくらいなら、独りの方がまだいいですよ」
道路の向こうに渡っていく有栖くんを追いかけようとした瞬間だった。
わたしは、自分がどこにいるのか全然考えていなかった。いつの間に出ていたんだろう、気が付くとわたしは道路の真ん中まで走ってしまっていて。
すぐ右の辺りから、鳥肌が立つような振動と、耳が痛いくらいのブレーキ音が聞こえてきた。
え、……えっ?
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