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再び刻み出す
「危ないっ!!!」
そんな声が聞こえて、けど、避けなきゃいけないはずなのに身体が動かなくて、もういろんなことが頭のなかをグルグル駆け巡り始めた。
どうしたらもっと諒くんとの時間をちゃんと過ごせてたのかな、とか、有栖くんのこと傷つけちゃったかもな、とか、この間実家に戻ったときにいた猫はそろそろ赤ちゃん産んだのかな、とか、本当にとりとめのない、いろんなこと。
いつも信号待ちしながら見ているトレーラー車の顔がすぐ近くに見えて、あれ、あれ……?
アスファルトに尻餅をついて、すぐ目の前まで迫っていた車体を見る。
妙なくらい静かになった道路にひとつだけちゃんと聞こえる音――荒い息遣いの方へ視線を向けると、そこには泣きそうな顔をしてわたしを見ている有栖くんがいて。
「何してるんですか、ほんとに! 一緒にいたときからちょっとぼーっとしてるなって思ってましたけど……けど、いくらなんでもぼーっとし過ぎですって! 死んだらどうするんですか!?」
「――――――――、」
「ちょっと、あの、聞いてます? えっ、そんなきつく言いました? あ、でもほんと危なかったし……」
「えっと、ごめん。なんか、すっごい心配してくれたんだなって」
「えっ…………っ!?」
ちょっとだけぼーっとした顔でこっちを見てから、本当に……なんて言ったらいいのかわからないような顔をしてそっぽを向いてしまった。あれ、なんか言わない方がいいこと言っちゃったかな……?
「べ、別に嫌だったとかじゃなくて……あー、えっと! だからそんな申し訳なさそうな顔とかやめてくださいよ」
そっぽを向いたまま、だんだんごにょごにょと小さくなっていく声でそう呟く有栖くん。なんとなくそんな姿が可愛らしくて思わずくすっ、と笑うと、「べ、別に笑わなくてもいいでしょ?」と言われてしまった。
「なんていうか……こういうの初めてだったんですよ。今までこの能力使った後って、絶対にひとりだったから……」
「――――、」
その言葉に、なんて返したらいいのか、咄嗟に言葉が出なかった。
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