鈍色の出会い

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鈍色の出会い

 文字を追っているとよく見る、空を見上げては『まるで自分の心を表したようだ』とかいうことを言いたがる人を、少なくともわたしは見かける機会なんてないまま今まで過ごしてきた。  だから、まさかその第一号が自分になるとは思ってなかったし、記念すべき第一号になったところでたいして嬉しくもないという事態に、ちょっとだけ拍子抜けしながらも、本気でそんなことを思っていた。まるで、わたしの気持ちをそのまま表したような空模様。 『あのさ、もうお互いめんどくない?』  ついさっき聞いたその言葉が、未だに現実味を持たない。いや、めんどいって何が? 何をどう面倒臭いと思ったのか、はっきり言ってくれなきゃわかんないんだけど?  ……なんて、そんな強気なことを言えるようだったらこんなダラダラした気持ちを引き摺ってはいないだろうし、何より『お互いめんどくない?』なんて言われるような関係性にはならずに済んだと思う。 「はぁ……」  もう何度目かわからない溜め息をつきながら、わたしはまるで心をそのまま写したみたいな曇り空の下を歩いていた。  今にも雨のひとつでも降りそうな空の下、赤信号で立ち止まったわたしの前を、まるで無感動に車の群れが横切っていく。  横断歩道の向こうでは、フォトスポットとして話題を呼んでいる大時計が午後3時を指していて、その前で記念撮影をしているカップルの姿から目を背けたりして、わたしは信号が変わるのを待っていて。  そんなときだった。 「こんにちは!」  背後――ちょっと低い位置から、明らかにわたしに向かっているような声が聞こえた。
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