万華鏡ナイトデート④

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万華鏡ナイトデート④

 何となく間の悪い人間、というのがいるなら、俺に違いない。  過去も、現に今でさえも、出くわさないほうが良いような出来事に出会ってしまって。 「優」 「桜井先輩」  二人は前に俺と小山田が朝に電車で偶然に会った朝に、校門で待ち合わせをしていた。  あの時も今と同じような感じで向き合って、何か話し込むようだった。 「他人行儀だね」  唇だけで笑って、どこか突っけんどんな口調の桜井湊は、じっと小山田だけを見つめている。  小山田もそうで、二人の間には何か特別なオーラがあって、とても俺には近付けそうもない。  確か小山田が去年に生徒会にいた時、この桜井先輩も同時に生徒会にいた。  とても華やかな生徒会の年だって皆言っていたし、筋金入りの内部生の小山田は、附属高校の一年生でも先輩たちと変わらない働きをしていたと、噂で耳にした。 「湊って呼んでよ?」 「その話ならもう終わったと思います」 「どうして? 勝手に終わらせただけだろ?」  唇尖らすように言う仕種も似合っていて、俺には入り込めない空気に、何歩か後ろに下がった。 「あの――じゃあ、小山田。また」  俺は目の前の駅の改札へと向かおうとした。 「すぐ終わるから待ってて」  珍しく声を低めた小山田の口調は、有無を言わせない圧があった。  さすがに人前に出たり、取りまとめたりするのに長けているだけあって、小山田の言葉に俺は立ち尽くした。 「君、誰だったかな? ごめんね、帰ってくれる? 俺は優と二人で話したいから」 「別に二人きりで話すことなんかありません。聞かれてマズイような話はこんな外でしないで下さい」 「へえー、よく言う口だな。聞かれていいわけ? 自分がマズイんじゃないの? 今日は聖マリア女学院と合コンだったんだって? 俺たち三年はもう受験態勢だけど呑気なもんだなぁ。俺も現に予備校帰りだけど。こんな時間に駅で会うとは思わなかったよ」 「いちいち俺の予定把握してるんですか」 「自惚れてんなぁ。うちの女子が、自分たちとしてくれれば良いのにって騒いでたから知ってただけだよ。でもうちの高校の女子とそんなこと、出来ないよね?」 「何がですか」 「合コンなんかして、バレたら小山田優のイメージ崩れるってこと!」  俺は話の行く先が見えなくて、困惑した。  さっきの合コンで、小山田に何かイメージが崩れることなんてなかったし、いつもと違うのなら多少空気が沈んでいたことくらいで――それもわずかな時間のことだった。 「もう女子と出来るようになったわけ? もう失敗せずに出来るようになった?」 「俺は何も変わらないですよ」 「へえ、それで合コンなんか行って、何を取り繕ってるわけ?」 「今日は呼ばれたのと――思うところあったから行っただけです。別にイメージなんてどう持たれようとかまわないですよ」 「あっそう。前まではあんなだったのに、今となってはてのひら返すんだね」 「それは、桜井先輩のせいじゃないですか?」 「俺のせい?」 「そうです」  しばらく沈黙が落ちた。  どうも俺は立ち去りたいんだけど、完全にタイミングを失って、この気まずい空気の中で身動きをするのも憚られた。
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