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「あれは剛田が悪いよー」
カラオケルームで、隣に座っている小山田が、ポテトを長い指先でつまみながら話している。
目の前で並んで座っている聖マリア女学院の女の子たち四人とも、一斉に小山田を見ている。
放課後、帰ろうとしたところを小山田優の笑顔につかまえられた。
にっこりと笑って腕をつかまれれば、俺にはもう選択権なんかないのと一緒だった。結局、こうして合コンに来てしまった。
男のメンバーはやっぱり原と剛田と小山田。それに付け加えて、俺。
「何? 小山田くん」
小顔ボブショートの子が身を乗り出して来て、小山田に訊いた。
「いや、体育で剛田がいたずらしたから、仁木に投げられちゃったの」
「うそー? 仁木くん、投げちゃうの? 剛田くんて重そうだよー」
「前から仁木が、やる目してるなって思ってて。んで、仕掛けたくなった。すまん」
と言いながら、剛田はちっとも悪びれた体なんてない。
「いやでもあれだ。最後に俺の身体引き上げたの、あれは手垂れだな。投げるだけなら出来るけど、最後の気遣いは経験積んでないとな」
「細いのに不思議だなー」
小山田優が俺の腕をつつくのに面喰って後退った。こんな場所で赤面してる場合じゃない。俺は訥々と説明した。
「……あの、外側の筋肉はあんまり必要ないから――内側がしっかりしてれば……。俺は合気道と剣道やってたから……。段持ちだし……だから、咄嗟でも俺から投げたりしたらいけなかった。ごめん」
「わ、そうなんだー。仁木くん、見た目とイメージ違う」
「仁木って脱ぐと細マッチョ? どうしてそんなにしてんの?」
小山田優が手を伸ばして触って来そうだった。
「……ッ」
俺は思わずカバンを引き寄せて胸に抱き締めた。
「前――祖父が、道場やってたから――通わされてただけ……」
「あー、遺伝な」
剛田は脚を組んで、俺をじろじろと見た。
「ちょ、今日、俺が主催したのに! 俺ずっとのけ者じゃん!」
原が端から、たまりかねたように言って、俺から視線がそちらに移って、俺はホッとした。
テーブルをはさんで座っている女子たちのクスクスとした笑い声。
始まっていくカラオケの音。
小山田が隣に座っていて、アイスティーを飲んでいる。
そんなことのすべてが、頭をぐるぐるとさせて、いつまでここにいて、いつまで過ごせば良いのか苦しくなってくる。
小山田とふとした瞬間に目が合えば、ふらふらとして俺の軌道はずれてしまいそうになる。
胸が熱くて、唇が渇いて、ただ苦しい。
なのに、これほど近くにいる瞬間が、ただ心弾んで、鼓動を止められない。
茶色のくせっ毛の明るい瞳をした端正な横顔を見上げて、俺はただ息も止まりそうに、鳴り響く音楽の中で身を沈めていった。
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