目覚めたら、心も傷痕もひらいて見せて③

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目覚めたら、心も傷痕もひらいて見せて③

「どうして……ここ――に」  腕組みしたまま、微動だにしない優は、今までに見たことがない厳しい表情で、ただ俺だけを見据えていた。  俺は唇が渇いて、ただその表情を見返すのが精一杯だった。 「部屋にいてって言ったよね? いないから、探しに来たんだよ」  いつもの明るさのない沈んだ瞳に、呼吸が苦しくなった。 「葉司はすぐに見つかったけど――どうして、俺じゃなくて安住さんと会ってたわけ?」 「あの……見た、んだ? いつから――」 「いつからか、気になる? どうして?」 「その……」  瑠奈のことを何か聞かれただろうか?  瑠奈は、どこまで何を喋っていたか、停止しそうな頭で必死に思い出した。  今も俺と瑠奈の胸には、七年前の時間が止まっていて、マイナスの冷気の中で凍ってしまっている。  それは乱雑に他人に扱われれば、あっという間に粉々に壊れて、砕け散ってしまいそうな、心の血で濡れた真紅。 「こんなところで隠れるみたいに、どうして二人でいたんだよ?」 「その――呼ばれたから」 「呼ばれたら、俺が待っててって言っても行くんだ? 葉司は誰と付き合ってんの? 俺たちって付き合ってるんだよね?」  付き合ってる――  俺は、何度か瞳を瞬いた。  付き合うってどういうことだろう――  今さらながら、そんなことに立ち止まってしまって、俺は後退って背後の壁にぶつかった。 (レンアイのゴールって何?)  そう、瑠奈に問われたからかもしれない。  あなたに問えば、その答えは易々と見つかるんだろうか?  目の前にいる、誰よりも愛しいひと。  あのシティボートに二人して甲板に立って、夜風になぶられるまま、メリーゴーランドのように巡り巡ったイルミネーションのきらめき。  あの新緑のような壁に囲まれた優の部屋で、白と青の眩暈のように、その温もりを感じてくちづけた戸惑い。  とても会いたくて、その笑顔を見つめていたくて、そのずっと先の光のような輝きがあるだけで、俺の心を救ってくれたひと。 「俺が瑠奈といるから、ってどういうこと? ずっと隣にいるからって葉司はどういうつもりで言っていた?」 「それは――」  俺が最後に瑠奈の傷に留めを刺したからだ。 「一緒にいるのは俺じゃないの? どうして安住さんに一緒にいるって、葉司は言うわけ?」 「今、瑠奈を、理解できるのは俺だけだ、と思うから――きっとこの先はそうじゃなくなると思うけど……ただ、今は。そういう風に、俺が、してしまったから……」 「どういうこと?」  言葉はひりついて、この咽喉からは出ては来ない。  舌の奥が痺れたようになって、心臓がこのまま止まりそうになる。  ねえ、答えられたら、どれだけ楽だろう?  でも、話してしまえば、永劫に、俺は優の隣にはいられない。  そうか――どの道を進んだって、優の隣にずっといることは出来ない。  ただ俺の我儘で、一瞬でも一緒にいたかった。  そんな夢を、かすかなまどろみの中で一瞬見て、宝石の眩しさのようにこの胸に閉じ込めておきたかった。 「安住さんと、何してた?」 「優……」 「俺は葉司が好きなんだよ? 他のやつとベタベタしてるのなんか耐えられない。葉司も逆だったら嫌だろ?」 「それは……でも、優が誰かを好きになることを、俺には止める権利は、ない……から……」
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