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「俺も、優にプレゼントできるようになるかな」
「いや、葉司のプレゼントなら今でも――だって、俺が欲しいのは――」
優は、そこで急に口をつぐんで、くるりと瞳を回して、視線を海へと反らした。
その時、ポツリポツリと冷たいしずくが落ちてきた。
空を見上げると、にび色の雲はさっきより厚くなっていて、海街の景色が降り出した雨に濡れていく。
「優、あっちで雨宿り――」
俺が店の軒先を指差そうとした時、ふいに肩をつかまれた。
「葉司、あのさ――」
優も俺も、雨の冷たさの中で、二人して立っている。
「今日さ、俺の家に、来ない?」
ゆっくりとそう言う優を、俺は見直した。
「でも、今日、休みだし。優の家族も家でゆっくりされてるだろうし」
「今日、誰もいないんだ」
会話している間にも、ポツリポツリと雨は髪も服も濡らしていった。
「この後、誘おうと思ってたけど。雨だし、今からじゃ、ダメ?だって、外にいても、葉司と手もつなげないし、抱きしめられないし。キスも、できない」
その言葉を聴いて理解してから、うわっと頭が沸騰するように熱くなった。
「ダメ?」
「優が……良いんなら」
「ん。じゃあ、行こう。ほら、駅まで走ろッ!」
「あ、優!」
雨の中、弾むように駆け出した優を追って、俺たちは人波の間を駆け抜けた。
「とりあえず、これで拭いて」
優にタオルを手渡しされながら、そっと辺りを見回した。
二回目の訪れになる優の部屋は、相変わらず新緑のような淡いグリーンのような壁で、ロイヤルブルーのベッドに、白いローテーブルと、整然と並べられた壁一面の本棚。
あのベッドで、初めてキスをしたんだ――
そうぼんやり考えていて、心はソーダが弾けたみたいにパチパチと泡立っていく。
誰も知らない、二人だけの記憶が重なっていくこと。
景色は知らなかった色に塗りかえられて、真っ白だったカレンダーが鮮やかに見えてくる。
「けっこう濡れたよな。かけて乾かそっか?」
ぽいとハンガーを投げ渡されて、両手で受け止める。
俺はパーカーを脱いでハンガーにかけると、カットソーの袖をまくって、眼鏡を外してローテーブルに置いた。
「葉司」
振り返ると、Tシャツ一枚になった優がすぐ後ろに立っていて、貸してくれたタオルを引っ張ると、それでわしゃわしゃと俺の髪を拭いた。
「葉司……」
低い囁きは耳元でしていて、後ろからその腕に抱き込まれた。
頬に優の唇がすべっていって、指先が俺のあごを捉えて、少し後ろを向かせた。
降りてきたくちづけに、抱きしめられたままに、目を閉じた。
お互いに少し冷たかった唇が、重なると少しずつ温もりをもって、それを分かち合っていく。
背中に感じる温もりと、唇に感じる熱さと、頭は軌道を外れて何処までも遠くへと連れて行かれてしまいそう。
ちゅ、と音を立ててキスは終わって、優は俺の髪に鼻先を突っ込んで、ぐりぐりとした。
「また来たね、のキス」
くすくすといたずらっぽく笑う優を見ると、立っていられないくらいに心臓は早鐘みたいに速まっていく。
「俺、やっぱり着替えよっかな。服、貸そっか?」
優の服――
「葉司?」
きょとんとした顔で尋ねられて、慌てて首を横に振った。
「いや、大丈夫。拭いておけば」
「葉司、濡れてるよ?」
そう言いながらバサリと音をたてて、Tシャツを脱いでしまった優が、タオルを片手にして目の前に立っていた。
「冷えるよ」
長い指が伸びてきて、俺の胸元に触れて、俺は後ろへとよろめいた。
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