雨上がりの空から、虹色のしずく③  (R)

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雨上がりの空から、虹色のしずく③  (R)

「やっぱり葉司も着替えたら?」  二人きりの部屋で、シャツを脱ぎ捨ててしまった優が、目の前に立っていて。  俺はただ動揺の中に放り込まれて、立ちすくんでいる。  首筋から鎖骨にかけてのくぼみの影、肩から胸へのしっかりと引き締まった筋肉、縦長のヘソに、なめらかな肌色。  とてもバランスが取れていて、躍動感のある肢体。  まじまじと近くで誰かの肌を見たことなどほとんどなくて、その均整の取れた上半身を目にして、我知らずにうろたえてしまう。  胸の二つの淡い色――そこまで見て、俺は思わず目をそらしてうつむいた。 「ちょっと待ってて。これで良い?」  優は引き出しから、きちんとシワなく折り畳まれた白い開襟シャツと、カーキのコットンパンツを差し出した。  目じりを下げて笑う無防備な笑顔に、俺はなんだか後ろめたい気持ちになって、おずおずと差し出された服を受け取った。  手にしてみると、優の服からふわりと良い香がした。  それは優のお母さんが洗濯した後で、その香に包まれながら俺は少し服を指先でなぞった。 「俺は、これでいいや」  作りつけのクローゼットに向かったまま、優がズボンまで脱ぎ出したから、俺はくるりと後ろを向いて、ベッドの方へ向かった。  優が着替えている間に、さっさと着替えてしまおう――  そう決めて、俺はカットソーを急いで脱ぐと、借りたシャツを素肌に羽織ってボタンも留めないままに、ジーンズを脱いで床に落とした。  後で畳もうと思って、慌てて借りたコットンパンツを手にしようとかがんだ時だった。  背中に、どしん、と衝撃を受けて、俺はよろめいた。  優の重みが背中にかかっていて、ドキンと心臓が跳ね上がる。  こういう優の急な行動は、とても心臓に悪いし、いちいち息が止まりそうになるんだけど、背中にかかっているこの贅沢な重みに、何も言えなくなってしまう。 「我慢しようと思ったけど――やっぱり俺――」 「あの、優……」  薄いシャツ越しに、優の素肌が触れていて、脚なんか、もろに肌と肌が触れていて―― 「やっぱり、無理」 「え、何……」  シャツの衿から、指が滑り込んでこようとして、俺は思わず反射的に、衿を手でぎゅっと握りしめた。 「ダメ?ちょっと葉司に触るだけ。いやなことしないから」 「え、え……?」  急な展開に頭はついていってなくて、余計に体は強張って、優を振り返ることができなかった。 「葉司が、ここで脱いでると思ったら――」 「脱い……着替えてたらそりゃ……」 「葉司の裸見たい。指、外してくれる?」  つーっと手を指先でなぞられて、俺はビクッと縮こまった。 「俺の裸なんか見ても……」 「えっ、ダメ? なんで? もう前に見たよ」  そうだ、修学旅行で傷痕を見せた時に、目の前で脱いだんだった――  意表をつかれて、一瞬脱力してしまった。  その隙に、どさりとベッドに押し倒されて、器用な指がするりとシャツの裾からめくりあげてしまった。 「ん。そう、これ」 こんな時までも、笑顔は相変わらずお日様のようで、俺はめまいに襲われた。 「触りたかった。思った通り、きれいな肌してる」  胸から腹を、確認するように掌が撫でていって、俺は頭が真っ白になって、とにかく止めようと優の腕をつかんだ。 「触るのダメ? たぶん葉司が本気で抵抗したら、俺に勝ち目ないから――俺は頼むしかないんだけど」  優は少し考えながらそう言った。 「好きだから、ぜんぶ見たい。好きだから、触りたいし、触って欲しい。そういうの、ダメ? いやな感じする?」  そっと優の体が上から重なってきて、初めて肌で識る、優の肌の感触と温度に、ぐるぐると頭が回る。 「優は格好良いけど、俺は……痩せてて格好良くないし……うまくできるか、わからないし……」 「えー、俺なんか最初のほう失敗ばっかりだったけど……あ、まあ、これはいいや。葉司は綺麗。だし、なんか、見てたら……」  優はふう、と息をついてから、くすぐるように耳朶から首筋を撫でていった。 「前に見てから、葉司の裸が、頭の中グルグルしてさ――触ったらどんな感じなんだろう、とか。肩とか、腹とか、太腿とか、ちく――」 「わッ」  優の指が胸先をすべっていったから、俺はビックリして思わず声が上がってしまった。 「どんな反応なんだろう、とか」  くすくすといたずらっぽく笑って、俺を見る眼差しはやさしくて、俺は言葉を失ってしまう。
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