夜は果てしなく、君は遠く輝く光④

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夜は果てしなく、君は遠く輝く光④

 教室の窓際の席で、ただぼんやりと英単語集を開いている。  クラスメイトたちは徐々に登校してきて、女子たちはその同じ色の丈がそれぞれに違うスカートを翻し、グループに別れてスマホを出したり、高い声で笑ったりしている。  俺が女子だったら――好きな人に好きだと言う自由くらいあったかな?  でも、それは甘い考えで、きっと性別だけでは解決しない。  そもそも俺だから、どんな夢も見れはしない。 「おはよう」  いつも決まって教室へ入って来る時に、皆へ向かって挨拶する彼。  教室で見る紺ブレザーの小山田はいっそうに爽やかで、好青年に見える。そこへ原が駆けよって、小山田の肩をばしんと叩いた。 「遅かったじゃん! ギリギリッ」  原は少し染めたカールのかかった長めの髪をして、バンドのギタリストをしているらしい。  原兼継、という重々しいフルネームで、一族をたどれば貴族らしい、という話を聞いたことがある。 「ちょっと呼び出されて」 「えーまたか」  並んで歩く姿は、あまり身長は変わらないが、小山田のほうがやや高い。 「おはよう、ジャイアン」  そう小山田にいたずらそうに声をかけられて、むっとした顔を向けたのは、机に浅く腰をかけて腕組みをしていた剛田だった。  剛田毅とニアミスな名前で、でも、ジャイアンと言われても、当たらずといえども遠からず、っていう感じだ。  短髪にがっしりした体格で、日に焼けていて声も低く、外見は高校生というにはかなりしっかりとした男だ。  父親が警察関係で、本人もその進路に進むのを決めている、というのは有名で剛田も隠していない。  どこかまだフワフワとした高二という大学受験までしか見えていないクラスメイトの中で、剛田は少し雰囲気が違っていた。 「あっ、修学旅行の班、仁木をスカウトしちゃったよ。俺らと一緒になるって」 「マジか。面白くなりそうじゃん。いつも三人だと変わり映えしねぇもんな」 「良かったな、優」 「うん。仁木、よろしくな?」 「え?」  近くに三人がいたとはいえ、突然に話しかけられて、俺はハッと顔を上げた。  思うより近くに小山田の顔が俺を覗きこんでいて、そのいつも真っ直ぐな瞳に、真正面から引き込まれそうになる。  何かうまく返さなくては、と思うほど、頭が真っ白になって何も浮かばない。 「葉司」  その時だった。  教室のドアから、鈴の鳴るような声がした。  振り返らなくても、何も見なくてもわかる。その名前で、その声で、俺を呼ぶのはたった一人。 「あ……安住さんだ」  原が、少し上ずった声を出した。  俺は、慌ててすぐに瑠奈のもとへ走った。 「どうした?何かあった?学校で俺のとこに来るなんて」  小さい声で、急いで囁いた。
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