木こり

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 「あのさ、どうして君たちは斧を湖に投げるのかな」 女性は腕組をしながら、つま先で地面を叩きながら怒りを表している。  「投げたと言うか、鳥に驚いて手を放してしまいまして……」  「すーぐ嘘つく」  正直に答えたのに信じてもらえない。  「そんな都合よく斧なんか落とすかっての。これ何キロあるか自分でわかってる?」 女性は右手に持っている斧の柄の端を持って、手首だけで上下に振っている。その光景を見ると本当は軽いんじゃないかと疑ってしまう。  「とても重たいです」 ―ーーーーー誘導尋問だ。  「だよね。それなのに投げ込んだことを「たまたまです」なんてよそよそしいこと言わないでくれる。あんたで斧を投げ込んだの何人目だと思う? 27人目よ」  そんなにたくさんいるのか。いや、もちろん僕はわざとやったわけではないんだけれども、思わず彼女を憐れんだ。  「そもそもねぇ、そんなにたくさん金の斧やら銀の斧があると思ってるの? こっちだって経済難なのよ! 金と銀の斧は合わせて二本しかないっつーの!」  地団太を踏みながら声を荒げる女性の愚痴は止まらない。僕は勢いに飲まれ、はいはいと返事をすることしか出来なかった。彼女はあらかたの愚痴を言い終えたところで、一つ深呼吸をすると、さっきまでの顔が嘘のようににっこりと笑顔になった。そして抱擁を待つかのように腕を広げると明るく言い始めた。  「それじゃ、恒例のやついくよ。私はこの湖の女神です。あなたが落としたのは金の斧ですか、銀の斧ですか。それとも……」  それとも……の後の言葉を彼女は続けない。もし誰かがこの光景を見ていたら、これはカツアゲのそれに見えるんじゃないだろうか。  「金の斧です……」  そういう他あるまい。僕にはこの流れで正直に「普通の斧です♪」なんて応える勇気はない。  「あっそ。それじゃこれあげるわ」  女神は右手に持っていた斧を僕にぽいっと放り投げた。思わず僕は足を引いて後ろに避ける。斧は僕が座っていた所に綺麗に刺さった。  「仕事も終えたし私は帰るわ」  女神は満足したのか、大股で湖の中に戻っていった。僕は女神が投げ捨てた斧を拾って、とぼとぼと家に帰った。
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