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次の日、僕はいつも通り木の前に立ち、斧を掲げた。そして渾身の力で金の斧で木に切りつけた。すると木はいつも通りの切れ込みが入る。僕は驚いた。金でもこんなに木を切れるのかと。そしてマジマジと斧を見つめる。すると木に当たったであろう箇所が鈍く輝いていた。
「なんだこれ…」
僕はその輝きを怪訝に思い、再び湖に向かった。女神に確認しようと思ったのだ。
湖に着きはしたが、女神を呼ぶ手立てがない。逡巡したが僕は金の斧を湖に投げ込むことにした。大きく振りかぶって勢いよく投げようとした、その瞬間「待って!」と声が聞こえ、勢いの付いていた僕は勢いを殺し切ることが出来ず、体勢を崩して転んだ。急いで身体を起こし、声のした方向を見ると女神が立っていた。
「売らなかったのね」
「僕はあなたに確認したいことがあってここに来ました」
僕は手に持っていた斧に視線を移し、尋ねた。
「この斧の材質は本当に金なのでしょうか」
女神は僕の側に寄ってきて、優しく僕から斧を取り上げる。そして、金の部分を手の平で何度かこすった。すると斧は金色の部分が無くなり、よくある鉛色の斧になった。しかもそれには見たことのあるキズがたくさんついている。
「これって…」
「騙してごめんなさいね。実はそれがあなたが最初に落とした斧なの」
「どうしてそんなこと」
「あなたがどちらを選ぶのか確かめたかったのよ。あなたが自分の誇りよりもお金を選べばおじいさんから受け継いだ斧を手放すことになったわ。でも、あなたはそうはしなかった。自分の仕事に誇りを持ち、斧を木に突き立てた」
僕は受け継いだ斧に視線を落とす。これが僕の誇り。そんなこと考えたことも無かった。僕の心がじんわりと暖かくなる。
「私はあなたの選択に感動したわ。あなたにだったら本物の金の斧を与えてもいいわ」
「いえ、お言葉ですけがこの斧があれば僕にはなにもいりません」
「強がっちゃって。そんな頑固なこと言ってると結婚できないわよ」
「ちょっとそれは困りますね。一生独身は勘弁です」
僕はあははと笑いながら、頬を人差し指でぽりぽりと掻いて弁解する。
「じゃあ、私があんたのとこに嫁いであげるわ」
思わず絶句する。この女神はなにを言っているんだ。
「金の斧がいらないなら私を貰いなさいよ。実は中々貰い手が現れなくて困ってたのよね。あんただったら誠実そうだし丁度いいかなって」
「すいません。金の斧をもらっていいですか」
縁談を断られた女神は怒って僕を追い回すのだった。
これから先も僕はこの斧で木を切り続けるのだろう。
僕と女神がその後どうなったかはあなたの想像にお任せします。
~fin~
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