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僕は木こりとして斧で木を切り倒し、それを売って生活している。今日も仕事で山の中で木を切り、休憩に入った。
湖で休憩しようと思い、駆け足で湖に向かう。湖に到着すると白鳥が優雅に泳いでいた。もっと近くで見ようと近寄ると、白鳥が突然羽ばたいてこちらへと向かってきた。僕は驚いて手に持っていた斧を放り出して、身をかばう。白鳥は僕にぶつかることなく空へと進んでいった。
危機を回避できたことに胸をなでおろすと、重大なことに気が付いた。放り出した斧が周辺に落ちていないのだ。僕の他には誰もいないし、考えられるのは湖に落としてしまったということだ。
「あちゃー、やっちゃった。今日は帰るしか無いかな」
頭を掻きながら、そんなことをつぶやいていると湖から女性が陸地に上がってきた。僕の右側に項垂れて立つ、その女性はウェーブがかった長い金髪に白いドレスを身にまとっており、その両手には斧を握っている。水中から出てきたというのに女性の髪やドレスは一切濡れておらず、その時僕は確信した。これは例の昔話のやつだ。
女性が首だけを動かしてこちらを見る。その顔はなぜか真顔だった。ちょっと怖い。
「あのさぁ、いい加減にしてくれる?」
「へ?」
なぜか彼女はとても不機嫌に、殺意が感じられる目つきで僕を睨みつける。
「どいつもこいつも斧を投げ込みやがって……」
ゆらりと彼女の身体が揺れ、身体がこちらを向いた。そしてゆっくりと歩み寄ってくる。その瞬間僕は悟った。これは逃げないとマズイ状況だと。僕はすぐさま反対側の森へ走った。だが、僕が森の中に入ろうとした瞬間、僕の顔をかすめた斧が目の前の木に勢いよく刺さった。そっと後ろを振り向くと、彼女は左手に持っていた斧を投げたままの姿勢で止まっている。
「逃げんなよ。こちとら積もりに積もる話しがあるんだ。こっち来て座れ」
「は、はい」
あまりの圧に僕は否定することができず、手招きをする彼女の前に正座した。
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