プロローグ

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プロローグ

「きゃああああー!!!」  草木も眠る真夜中、大きな屋敷に絹を裂くような悲鳴が響き渡る。  悲鳴を聞きつけた男がすぐさま屋敷の奥にある大きな部屋の扉を開いた。 「ライラ様、何事ですか!」  悲鳴の主であり、この屋敷の主でもある女、ライラは、へたり込んで震えていた。 「し、信じられない……」 「何事です?」 「私の髪に、私の髪に一本白いものが!」 「ああー白髪ですね。もうライラ様30歳ですもの。白髪の一本やにほ」 「まだ29歳よ!」  ライラは男の声に苛立ち声を荒げた。自慢の黒髪に白いものが混じった事態の恐ろしさを微塵も理解しようとしない男に制裁を加えるべく立ち上がり、部屋を見渡す。  ライラは、ベッドの側のテーブルに置いてあったワインの瓶を掴んだ。さっき少し飲んだだけなのでまだ中身は十分ある。そのワイン瓶を逆さまにし、男の頭にぶちまけた。ライラより男の方が背が低いので、頭にかけるのはたやすい。 「ワインがもったいないじゃない。どうしてくれるの」  ワインがもったいない事態になったのはライラがぶちまけたからであり、男にはなんの責任もなかったが、まだワインが男の顔を血の滝のごとく流れ落ちていて口を上手く動かせない。そのため反論しようがなかった。 「カイル、お前は今何歳だったかしら?」  ワインをかけられた男はカイルという名だ。 「20歳であります」  カイルはワインが完全に顔から流れ落ちて、顔を拭いながら答えた。 「20歳のお前に、私の何がわかって? 白髪なんて生えたこともないでしょう」 「はい」  カイルの髪はくせがあり、うねっていて質感はよくなかったが、黒くびっしりと生え揃っている。 「はあ、お前はいいわね。若いのか年寄りなのかよくわからない顔立ちだし、体型もすでにぶよぶよしていて年とともに崩れるわけでもなくこのままの見た目で年を取るんでしょうよ。『わがままボディなとっつぁん坊や』コースね。ワインは拭いておいて」  ライラは言いたいだけ言い放つと、部屋の中央にある大きなベッドに身を投げた。 「承知しました」  カイルは雑巾を取りに部屋を出ようとした。 「カイル」 「はい、なんでしょう、ライラ様」 「白髪をなんとかする方法、明日中に探して」 「承知しました。しかし、ライラ様」 「なに」  ライラはだるそうに返事をする。 「そんなに若さと美しさに固執しなくても」  ライラは、大きな黒目をカイルの方に向けた。 「お前、私の好きなところは?」 「見た目です」 「黙って白髪を無くす方法を探してこいやこのボケーーー!」  またしても屋敷にライラの大声が響き渡った。
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