第三話:純粋な筋肉痛

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 月一の『神への感謝日』は遂に明日にまで迫っていた。  次期領主エルドレッドが自ら主催し、「かつての記念日を復活させよう!」と大々的に宣伝した甲斐あって、シリウスフォール内はにわかに色めき立っている。  当日は、天の御柱の伝承をフランシス司祭――は日光を浴びると灰になってしまうのでローランドが代わりに語ったり、訪れた者にクッキーと流星花を配ったり、有志の者らが出店をしたり、兵士が奉納の意を込めて組み手模擬戦をしたり、腕相撲大会や飲み比べ大会があったり――  それからもちろん、アシタルの歌と踊りも。  とにかく、賑やかになりそうであった。  領民の期待度は高く、運営側の士気も高い。  万事好調だった。  ――アシタルのダンスが一向に上達しないことを除けば。 「もうダメだ……おしまいだぁ……」  時刻は既に夜だった。  記念日は明日の朝からである。  日もとっぷり暮れた神殿の庭、アシタルはガタガタしながらうずくまっていた。 「うーん……まずいね! これはまずいね! ビックリしてるよね!」  フランシス司祭がダンスレッスンを見守っていてくれたが、あまりにもアシタルがダンス音痴なので逆に感心し始めていた。 「うっ……ひぐっ……ぐすっ……もう歌だけで勘弁してくらひゃいいいい」  アシタルは顔の穴という穴から水分をジョバジョバさせていた。 「し、し、司祭しゃまぁぁぁ~~~バンパイアのなんかしゅごいパワーでなんとかしてくらひゃいよおおおお」 「ええ……我輩こう見えてエンシェントバンパイアロードでメチャクチャ強いしユニークスキルめたくそ持ってるけどそんな……ダンスをうまくする能力とかニッチすぎるのはちょっと……」 「ひぇぇえ~~~ん!!!」 「こういう時はさ、神頼みだよね」 「かみだのみ……」 「アシタル君って半死状態の時に天の御柱君に会ったんだっけ」 「そうですけど……」 「じゃあ今からちょっと君のこと仮死状態にするから!」 「……はい!?」 「逝ってらっしゃい!」  その瞬間、フランシスがアシタルの目をギッと覗き込んで――その目が月蝕の月のように赤く不気味に輝いて―― 「――『精気奪取(エナジードレイン)』! 低出力バージョン!」 「ウワーーーーーーッッ!?」  そして、アシタルの意識が久々に暗転する。
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