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月一の『神への感謝日』は遂に明日にまで迫っていた。
次期領主エルドレッドが自ら主催し、「かつての記念日を復活させよう!」と大々的に宣伝した甲斐あって、シリウスフォール内はにわかに色めき立っている。
当日は、天の御柱の伝承をフランシス司祭――は日光を浴びると灰になってしまうのでローランドが代わりに語ったり、訪れた者にクッキーと流星花を配ったり、有志の者らが出店をしたり、兵士が奉納の意を込めて組み手模擬戦をしたり、腕相撲大会や飲み比べ大会があったり――
それからもちろん、アシタルの歌と踊りも。
とにかく、賑やかになりそうであった。
領民の期待度は高く、運営側の士気も高い。
万事好調だった。
――アシタルのダンスが一向に上達しないことを除けば。
「もうダメだ……おしまいだぁ……」
時刻は既に夜だった。
記念日は明日の朝からである。
日もとっぷり暮れた神殿の庭、アシタルはガタガタしながらうずくまっていた。
「うーん……まずいね! これはまずいね! ビックリしてるよね!」
フランシス司祭がダンスレッスンを見守っていてくれたが、あまりにもアシタルがダンス音痴なので逆に感心し始めていた。
「うっ……ひぐっ……ぐすっ……もう歌だけで勘弁してくらひゃいいいい」
アシタルは顔の穴という穴から水分をジョバジョバさせていた。
「し、し、司祭しゃまぁぁぁ~~~バンパイアのなんかしゅごいパワーでなんとかしてくらひゃいよおおおお」
「ええ……我輩こう見えてエンシェントバンパイアロードでメチャクチャ強いしユニークスキルめたくそ持ってるけどそんな……ダンスをうまくする能力とかニッチすぎるのはちょっと……」
「ひぇぇえ~~~ん!!!」
「こういう時はさ、神頼みだよね」
「かみだのみ……」
「アシタル君って半死状態の時に天の御柱君に会ったんだっけ」
「そうですけど……」
「じゃあ今からちょっと君のこと仮死状態にするから!」
「……はい!?」
「逝ってらっしゃい!」
その瞬間、フランシスがアシタルの目をギッと覗き込んで――その目が月蝕の月のように赤く不気味に輝いて――
「――『精気奪取』! 低出力バージョン!」
「ウワーーーーーーッッ!?」
そして、アシタルの意識が久々に暗転する。
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