第三話:純粋な筋肉痛

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「殺されるーーーーーッ!?」  アシタルは飛び起きた。  周囲の光景は……雲の上。なんだか見覚えのある場所。 「や、アシタル。久し振り~」  そして正面には、これまた見覚えのある白い青年。へらりと笑って手をヒラヒラしている。 「てっ、天の御柱様……!?」 「だよー。元気そうだね。まあ今の君、仮死状態だけど」 「ちょっ……あの吸血鬼~~~!!」 「まあまあまあ、低出力で加減してくれてるみたいだから。フランシスが本気でドレインしたら、君、蒸発して服しか残らないよ」 「ひえっ……吸血鬼こわっ……!」 「凄いよねぇ。……さて、それで、アシタル。見てたよ! ダンスがド下手くそでヤバいんだって?」 「…………ウッス」 「しょうがないな~~」 「ど、どうにかできるんですか!?」 「今から僕が君にダンスを叩き込んであげよう」 「叩き……込む……? あの、ひょっとして右腕の時みたいな――」 「え? 今からみっっっ…………ちりダンスの練習だけど?」 「あっはい」 「ここでの時間と、現実での時間は、流れが違うんだ。こっちの数時間はあっちの数分、みたいな。だからここで死ぬ気で練習すれば間に合うさ!」  ニコ!  天の御柱は楽しそ~に微笑んだ。……この神、さては愉快犯だな。 「さあ、アシタル。歌って踊れるヒーラー目指してがんばろっ! ミュージックスタート――『神力高音質(ゴッドサラウンド)』!」 「なんか必殺技みたいなのがーー!?」  どこからともなく、音楽がメチャクチャ高音質で流れ始める。  この神、戻りつつある力を無駄に遺憾なく発揮しているのではなかろうか。  一方、地上では。 「うーん、アシタル君すごく痙攣している」  ぶっ倒れたアシタルを、フランシスはしゃがみこんでツンツンしていた。  アシタルは白目を剥いてビックンビックンしており、乙女として非常に残念でお見せできない様相をしていた。 「ちょ、ちょっとフランシス司祭――ーーー!?」  そこに現れたのはローランドだ。倒れているアシタルを見て慌てている。 「な、な、何があったんですか司祭様!?」 「あっローランド君いいところに。説明するからちょっとこっち来て兜のバイザー上げて」 「か、兜の……? かしこまりました」  何がなんやらと混乱しつつも、司祭に手招かれるまま、近寄って兜のバイザーをかぱりと開けるローランド。  次の瞬間。 「くらえーーエナジードレインぼちぼち出力! 君もちょっくら逝っといでーー!!」 「ぐわああああああーーーー!!」  ――場面は再び『この世ではない場所』へ。 「ウワーーーーーーッ!!」  野太い悲鳴が聞こえてアシタルが振り返れば、そこにローランドがいた。 「ハァ……ハァ……ここは一体……はっ! アシタル様、御無事で!?」 「ローランドさん! どうしてここに……、……まさかフランシス司祭」 「あの吸血鬼~~~!!」 「わあさっきの私と全く同じリアクション」  アシタルは察した。あの吸血鬼やりたい放題か……。 「あ、君がローランド?」  そこへひょっこり顔を除かせる天の御柱。「どなたですか?」と質問が来そうなので……アシタルは先んじてローランドに説明をした。この白い青年のこと、この場所のこと、自分の状況のこと。 「なるほどそういう!」  流石のローランド、理解がおそろしく早い。素直か。 「天の御柱様にお会いできるとはなんたる光栄……しかし今はアシタル様の修行ですね! 天の御柱様、わたくしもお手伝い致します!」 「頼もしいね~。それじゃあアシタル、お友達も来てくれたことだし、引き続き練習だよ、練習!」  二人がキリッとした顔で振り返る。 「う、うぃーっす……」  アシタルは腹を括った……。 「うーん、アシタル君もローランド君もすごく痙攣している」  その頃、ドレインを使ったことでお肌がツヤツヤしている吸血鬼フランシスは、倒れた二人をツンツンしているのであった。
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