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第四話:砕け散る四肢
「ヒャッハァーーー!! 邪魔するずぇえええい!!」
蛮族が来た。
神殿のドアをバーンと蹴り開けて、なんかヤベーのが来た。
漆黒の鎧に、傷痕だらけの顔、武骨という表現がぴったりなハルバードを担いでいるし、その目は瞳孔が開いてギラギラしていた。
「ぐぇっへっへっへへへへへへへへへ!! ご機嫌いか~がァ~~」
べろぉと武器を舐めながらのドス低い声。
アシタルは武器を舐める人を創作以外で初めて見た。
まあ、端的に言うと、ヤバい。
「あ……あの……」
どちら様ですか……とアシタルが声を震わせた、その時である。
「……兄さん!?」
ローランドのビックリした声が聞こえた。
「え!? に……『兄さん』っ!?」
アシタルはローランドと謎蛮族とを見比べる。
視線の先、ローランドは鎧をガチャガチャ鳴らしながら黒鎧へと駆け寄った。
「ザカリー兄さん! もう、ドアを蹴り開けるのはお止め下さい!」
「ドアは蹴り開けるもんだろォ!? 我が弟ぉ、元気にしてたかぁ!?」
「全く……はい、こちらは変わりなく。兄さんは遠征帰りですか? お疲れ様です」
「おつありだぜぇ! ヒャッハッハー! 久々の帰還でテンション上がるずぇあ!!」
「テンション上がったら武器なめちゃう癖、相変わらずですねぇザカリー兄さん」
なんか鎧二人が肩を組んできゃっきゃうふふしている。アシタルは呆気に取られている。
(ていうか武器なめるの癖って)
どんな悪癖だと心の中でつっこむアシタル。それからおそるおそる、鎧達へ声をかけてみる。
「あの、ローランドさん、その方は……」
「あ。紹介が遅れましたね。こちらザカリーと申しまして、わたくしの実兄です。シリウスフォール随一の戦闘部隊の隊長でして――」
「他所の領地で傭兵として戦ってンのさぁ!! シリウスフォールはわりと火の車だからなぁ!!」
ザカリーはメロイックサインを決めながら獰猛に笑った。
(えええええご兄弟……に、似てない……いやローランドさんの方は顔見えないけど、雰囲気が)
THE優等生真面目素直の弟(白鎧)。
THE蛮族戦闘民族ヒャッハーの兄(黒鎧)。
さてそんな兄の方はというと、ズイッとアシタルを覗き込んできて。
「お前が、例の?」
「はひっ……例の、とは?」
「アレだよぉ! 歌って踊れるアレ!」
「あっ……はい……」
つい数日前の、あの記念日のことだろう。メチャクチャ恥ずかしかったが、拍手と歓声は心地よかったなぁとアシタルは思い返す。
「うちの兵共がさえずってたからよぉ、何だってンだ聞いてみたら、お前のこと話したのさ」
「そ、それはどうも……?」
「おいお前!! 名前はァ!!」
(声がでかいッ……!)「あ、アシタル、です……」
「俺様はザカリーだ!! よろしくッ!!」
「よろっ、よろしくですます!」(声がでかいッッ!!)
「アシタルお前!! お前暇か!? 暇だろ!? ちょっくら新兵の遠征訓練に付き合えや!!!」
「はひ!? え、えんせい!? くんれん!? でも私、兵隊じゃないというか……っ!」
シリウスフォールの男子って強引すぎないか、とこれまでのなんやかんやを思い返しつつ、アシタルは目を白黒させた。
それから、冷や汗をダラダラしつつローランドにヘルプの目を向ける。
「兄さん、それはあまりにも強引ですよ! 唐突すぎますし!」
「ローランドさん……!」
「……なので、わたくしちょっとフランシス司祭に大丈夫かどうかおうかがいしてきますね!!」
「ローランドさーーん!?」
――三分後。
「オッケーですって~~!」
ローランドが嬉々として戻ってきた。
こうして、アシタルの『傭兵部隊新兵の遠征訓練手伝い』が(フランシス司祭の二つ返事によって)決定したのである。
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