73人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「ところでよぉアシタル。お前、植物治せたりする?」
「植物……試したことないなぁ……モルトゥ、どう?」
『完全に枯れてなければできるよ! 人間や動物を治すよりもちょっとだけ簡単だよ』
「ふむふむ……できるみたいです、ザカリーさん」
「お。ちょーど良かった。んじゃ、さっさと本調子に戻れよ! 元気ンなったら、改めて話したいことがあっからよぉ! 覚悟しときやがれ!!」
シリウスフォール傭兵部隊隊長にして、神殿所属神聖騎士ローランドの実兄、戦士ザカリー。
彼とアシタルがそんなやりとりをしてから、数日後の出来事であった。
「辺境の岩山にあるハイエルフの村に行って欲しい!」
アシタルはザカリーにそう要請された。
「なんでも、そこの御神木とやらが萎びて枯れそうなんだとよぉ! 治してやってくれや! 俺様のダチ公の村なんだよなぁ!」
というわけで、断る理由もない――困っている人を助けることが本懐ならばと、アシタルはそれを引き受けた。
村へはザカリー、そしてシリウスフォール領主ヴィクターが既に連絡を入れてくれているとのことだ。
ちなみに次期領主エルドレッドがついて行きたそうにしていたが、岩山を登ると聞いてアッサリ「お留守番しておこう!」と手のひらをクルーッとしたのであった。ついでに「お土産よろしく」も言われた。自由か。
さて。
そんなこんなの果てに岩山の村にたどり着いたアシタル。
門の向こうは異文化の土地であった。
褐色の肌、ガッシリした体つき、どこか土着的な顔立ちをしたハイエルフ達。
彼らがまとうのは気温の高くない高地ゆえに毛皮や羽根で、露出は少ない。エルフの特徴である長い耳は、だいたい毛皮の被り物で隠れている。
そんな温かそうな衣類から覗く肌には鮮やかなペイントやタトゥーが施されていた。天然石のアクセサリーを身につけている者も多い。
彼らの装いは、灰色の目立つ高地のモノトーンに反して、原色が多く色鮮やかだ。
そんなハイエルフ達のいでたち、そして村のそこかしこに掲げられているシンボルには、シャーマニックな神聖さと美しさがあった。
「わぁ~……!」
上京するまでは田舎の村で、上京してからはずっと神殿で、とアシタルは狭い世界で生きてきた。
初めて目にする異文化はとても鮮烈で、込み上げるような感動を少女の心にもたらした。
「よくぞ参られた!」
アシタル達を出迎えたのは、高貴そうな身なりをした男だ。人間で言うと外見年齢は四十代ほどだろうか? 尤も、外見年齢と実年齢に大きな差があるのがエルフの特徴であることをアシタルは知っているが。
「風樹の村、村長のレコである。話はザカリー殿とヴィクター殿から聴いているとも」
豪気だが穏やかさのある雰囲気だ。アシタルはホッとしつつ、お辞儀をする。
「アシタルです。ええと――よろしくお願いします!」
言ってから、アシタルは「しまった」と思う。ちゃんと頭の中で練習したのに――「シリウスフォールより領主様とザカリー様からのご命令で参上しました治癒師のアシタルと申します」って。言うつもりだったのに。
……隣でローランドが踵を揃えて完璧に挨拶をしているのを見て、尚更「やっちまった」感が湧き上がる。
「噂はかねがね、うちにも届いている。……ああ、そう固く畏まらなくて大丈夫であるぞ、狭苦しいのはいかん」
村長レコはからからと笑った。アシタルはもう一度、深い安堵を覚えた。
そんな来訪者へ、村長は。
「長旅ご苦労であった。岩道で大変だったろう? まずは休憩するといい――お風呂にでも入るか?」
「「お風呂」」
アシタルとローランドの声が重なった。
険しい道を時間をかけて歩いてきたのだ。疲労もすれば汗もかく。筋肉だって疲労する。それらをリフレッシュさせる温かいお風呂は、とてもとても魅力的であった。
「ならばこちらへ! うちの自慢の露天風呂を堪能していってくれ」
レコはそう笑って、二人を案内してくれる。
最初のコメントを投稿しよう!