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「気合いです! 気合いですよアシタル様!」
ガッチャガッチャガッチャガッチャ。
アシタルの後ろから延々と聞こえるのは、鎧の重厚な金属音もとい足音と、その装着主であるローランドの応援だ。
「ふぁ、ふぁいおー、ふぁいおー、ふぁいおー……」
ぜーはーぜーはーぜーはー。
アシタルは息が上がりすぎてヤバイことになっていた。
現在、太陽が昇りつつある早朝。
アシタルは体力をつける為に、ローランドと共に走り込みをしているのである。
「はぁ……はぁ……おぇっ……」
アシタルはあんまり運動が得意な方ではない。むしろどちらかというとインドア派で、かけっこなんかは大体後ろの方だった。
そんな感じなものだから、アシタルはほぼゾンビめいた足取りで、辛うじて『走っている』と呼べるような状況で。
(肺がッ、肺が潰れそうッ……! 死ぬッ……!)
グロッキー極まりないアシタル。 「きゅー!」とモルトゥがその側をパタパタ飛びながら応援してくれている。
そしてその後ろでは、ローランドが元気ハツラツと伴走してくれている。金属音が凄くうるさ……存在感がある。
(ていうかローランドさん、金属鎧フル装備で、なんであんなに元気いっぱい走れるの……!? 息も上がってないし……!? こわッ!)
後ろから鎧の音がエンドレスガッチャガッチャ。パラディンは凄い、アシタルはいろんな意味で思った。
「さあ、ラスト一周ですよアシタル様ッ! この調子でがんばりましょうッ!」
「ふぁい……!」
「景気付けに聖歌でも歌いますかッ!?」
「だいじょぶれす……!」
「きーらめーくほーしのーーー♪」
「だいじょおおおぶれすぅ!!」
「さあご一緒に! 肺活量を鍛えましょうね!」
「むりですううう!」
「ハモりますから!」
「ハモらんでよいですうう!! おえっ ゲホッゲホッ」
――とまあ、なんとかかんとか走り込みをフィニッシュして。
やっと終わったー……と神殿の庭に汗びっしょりでひっくり返ったアシタルだが。
「お疲れ様です、アシタル様! よくがんばりましまね。さあ、一休みしたらトレーニングを続けましょうね。とりあえず腹筋と背筋と腕立て伏せ十回ずつを十セット」
「……ふぁ!?」
十回を十セットってそれ百回ですよね? アシタルは我が耳を疑った。
「世の中の構成は非常にシンプルなのです、アシタル様。すなわち鍛えるか、鍛えないか」
「ちょっと何言ってるか分からないです!?」
「貴方の筋肉が世界を救うのです」
「いっぱい治療できるように体力を付けたいとは思ってますけども!?」
――さて、無情にも休憩は終わり。
「良いですか? アシタル様」
腹筋をするアシタルの足を押さえて回数をカウントしているローランドが、半死半生のアシタルに言う。
「ヒーラーも、パラディンも、立ち続けなければならない者です。我々が倒れてしまえば、誰が『誰か』を護るのでしょう?」
「た、たしっ……かにっ……」
「同じ理屈で、自己犠牲も駄目ですよ。自らを磨り減らすことは、貴方を大切に思う誰かの心を磨り減らすことです」
「自分大事にっ……!」
「ですね! さて、一休みしましょうか。休憩も大事です、何事もメリハリです」
「や、やっ……たー……っ!」
「第二ラウンドもがんばりましょうね! 鎧を着て走りますか? メチャクチャ体力つきますよ。確か初心者用の軽めの鎧があったはず」
「や、ヤダー……っ!!」
今一度、アシタルは大の字に転がった。
すっかり日の昇った太陽が見えた。それから、まだ短い『天の御柱』の神殿も。
汗びっしょりの頬を、そよ風が優しく撫でていった。
(ちょっとは体力、つくといいなぁ……)
せっかく凄い力を得ても、それを使いこなせなければ意味がない。
昨日は「ヒーラーになれる」と浮き立っていたが……まだまだ、アシタルのヒーラーへの道のりは長そうである。
(一つずつ、がんばっていかないと……)
などと気合を入れるも、流石に鎧を着ての走り込みはしなかった。死ぬわ。
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