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第一話:星落ちによる胴体貫通欠損
――溜め息を吐いた。
少女アシタルには夢がある。
立派な治癒師になって、たくさんの人を助けたい。
そんな夢を叶えるために、田舎の村から近隣都市シリウスフォールに上京してきて……早一年。
――『不受理』。
ヒーラーとは他者の命を預かる者。ゆえにちゃんとした許可証が要るのだが。
「今回も……ダメかぁ……」
アシタルは選考結果が書かれた紙をくしゃりとたたんで、何回目かのため息を吐いた。
今回の申請も不受理に終わった。
今回も今回とて、「もっと努力して再申請して下さい」といった内容が紙面上に書かれていた。
なぜ今回もダメだったのか。
アシタルとて自覚はある。
――そう、ヒーラーとしての才能が致命的にないのだ!
(これでも……頑張ってるんだけどな……)
夜遅くまで本を読んで勉強したり、ヒーラーの所属する神殿に住み込み手伝いをさせてもらって、毎日技術を教わったり。
そもそもヒーラーとは、この世界に数多存在する『神』という高位存在から権能の一端を譲り受け、治癒という奇跡を発現する魔法使いのことである。
アシタルはその『魔法として発現する』為の才能が、悲しいほどに……なかった。
(うぅ……つらい……)
最初の頃こそ、「次もがんばろう!」と前向きになれた。
でも流石に、一年近くダメ続きだと心もベコベコに凹んでしまう。
……シリウスフォール城壁外の小高い丘の上、都市を一望できるここが、アシタルがよく足を運ぶお気に入りの場所だった。
つらいことがあった時は、いつもここに来る。柔らかい草っ原の上に座って、心が落ち着くまで、賑やかな都市をぼーっと眺めるのだ。
――シリウスフォールは古い都市だ。
年期の入った城壁は、所々が欠けてしまっているが、その修復が後回しなのは、世界が大きな戦乱もなく平和な証である……のと、そこまで都市が『お金持ち』ではないのとが理由である。
それからひときわ目を惹くのが、途中から折れてしまった塔のような形をした神殿だ。アシタルはあの神殿に住み込み手伝いをさせて貰っている。
なんでも、城壁も神殿も、昔に「星が落ちてきて」壊れてしまったのだとか。
(星が落ちてくる……か)
このシリウスフォールでのみ、まれに起きる災害だ。建物一つが全壊することもある。
そう言えば星落ちの瞬間を見たことがないなぁと、アシタルは空を見上げた。
真昼の青空で、当たり前だが星は見えず、太陽がキラキラと眩しい。
眩しさにアシタルは目を細めた。
それから――
「……あれ。なんで、太陽が二つ……?」
青空に二つの光。
一つは本物の太陽だ。
もう一つは、激しい光を発しながら迫ってくる『星』だ。
そして不運にも、アシタルが見上げている光こそが――彼女の真上から垂直に落ちてくる星なのであった。
「……え、」
轟音。
と、暗転。
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