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第五話:朽ちる始祖の樹
「……死゛ぬ゛ッ……」
今日もアシタルは元気に半死半生だった。
尤も、半死半生の時点で元気ではないが。
――シリウスフォール辺境。
アシタルは荒涼とした岩山を登っていた。
勾配は急で、道は舗装されていない獣道、時には大きな段差を乗り越えたりする必要もあった。
「アシタル様ー、気合いですよー」
先導するローランドが振り返る。今日もやっぱり全身フル鎧である。
(よくあんな重装備で山登りできるなぁ……!?)
アシタルの中で、「ローランドの本体は鎧説」「中の人は鎧かけ機説」が今日もまた濃厚になった。
「はぁ……モルトゥが羨ましい」
モルトゥはちゃっかり、アシタルの肩の上。きゅーと鳴いた子竜の声には「そんなこと言われても」という色がこもっていた。
アシタルは先日、ザカリーと共にした新兵訓練にて、ふくらはぎが爆発しそうなほど行軍訓練をしたものだが……その成果を全く感じられない現状である。
「……右手、使っていいですか?」
アシタルはゼーハーしながらローランドに問うた。足が限界で破裂しそうだ。この痛みを自己治療したかった。
「ダメですよー。これから治療を行うのですから、力を温存しておかねば」
「うっ……そうですよね……そうですよね……」
「間もなく目的地ですから、あともうひと踏ん張り! ですよ!」
「ふぁい……」
アシタル達が向かっているのは、この岩山の頂にあるハイエルフ達の集落である。
「ハイエルフって……上位種のハイエルフじゃないんですよね?」
「『高地のエルフ』という意味でハイエルフですね。エルフにもいろいろ種族があるみたいですよ」
息も絶え絶えなアシタルに対し、ローランドの物言いは滑らかなものだ。
アシタルがパッと想像するエルフ――森の中で自然と共に生きているようなタイプ――は、厳密には『ブッシュエルフ』と呼ぶのだとか。
他には魔物寄りのダークエルフ、古代種エンシェントエルフなどなど、エルフ界も様々なようだ。加えて、この平和な時代で他種族との混血も進んでいるらしい。
「ふと思ったんですが」
ローランドから語られたエルフウンチクを思い出しつつ、アシタルが言う。
「ハイエルフが鍛練して上位種に進化すれば」
「ハイハイエルフになりますね」
「よ、呼びにくそうですね……」
「ハイランドエルフという呼び方にしよう、という意見も出ているそうですよ」
「いろいろあるんですね」
「世界が平和な証拠ですよ」
人間や他の種族らが国をあげて世界中で殺し合っていたのも……
魔物の大軍団が世界を破滅させんと大攻勢を仕掛けてきたのも……
異世界から転生したという超人が大活躍していたのも……
どれもこれも、今ではもう過去の話。
魔物の脅威や、国や領地同士の小競り合いはチラホラあるとはいえ、世界は概ね平和だった。
まあそんな現状を「衰退に繋がる停滞」と嘆く学者もいるのだが、それはまた別のお話。
「見えてきましたよ」
そうこうしている間に、ローランドが前方を指差した。
顎先から汗を滴らせるアシタルが顔を上げれば、遠くに大きな門が見えた――ハイエルフ達の村、目的地だ。
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