69番の檻

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 ──これは五十センチ四方の穴だから、スコップで手掘りをすればいい。新しい外灯を打ち立てたら、根枷をつけてセメントの穴に突き刺す──  母親も姉も、莫迦がつくほど素朴な女だった。きっと俺の生まれたことを、喜んでいたに違いない。嬉しかったに違いない。喝采を浴びる人間になるよりも、成功者になるよりも、心から魂を躍らせて生きて欲しいと願ったに違いない。だが俺は失敗者だ。今はその日暮らしの左官屋で、胡散臭い材料屋に勤める正体不明の女の家を修理している。  おまけにその女は娘とともに、姿を消した。    午後二時。六ノ星警察署の刑事が一人でやって来た。背が高くて顔色の悪い半田というあの刑事だった。相変わらず、雑草に猫の小便をかけたような匂いを放っていた。奴は、言った。 「ボンゴの中で死んでいた男は、殺されていたんじゃなくて、病死だった」  俺は眉をひそめた。 「──え?」  しかし刑事はパンチドランカーさながらに左右の目を上下に動かし、ぶつぶつ告げた。  
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