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だが、と俺は言った。
「この前は撲殺されていた、って言ったじゃないか」
刑事は、返す。
「いや、検死の結果は病死だった」
「……」
虻が刑事の足の周りに集った。俺が見詰めると、刑事は先がへたって古びた革の靴を一、二度、軍人のように動かした。
俺は言った。
「──ふつうはそんな間違いをしないだろう?」
しかし刑事は首をふった。薄暗い灰色に目をうるませ、シャツの襟をびしょびしょに濡らした。麻雪と子供を見かけたら連絡するように、と抑揚のない声で言った。
「もと旦那が探している。親権者変更の裁判沙汰で」
そして自分の携帯電話の番号が書かれたメモを手渡し、帰っていった。
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