69番の檻

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   俺は暫くそこにじっと立ち、樹木に咲く花を見上げた。冬だというのに、なぜか花々がこぼれるほどに咲き、熾烈な美貌を誇っていた。麻雪の隣家は、二階建ての空き家で、窓が破れていたが、野放図の庭は美しかった。白いハンカチを広げたような大きな花弁が、青空の下で揺れていた。  首をぎしりと動かし、呟く。 「──刑事といえば、二人組で行動するものだと思っていた。だが先ほどの男は一人でやってきた」  こんな腐った田舎の警察署の捜査だから死因くらい平気で変わるってことなのだろう。  俺は指先を舐め、半田という刑事の残した足跡を見下ろした。  きっと最初は正義の小間使いだったのだろうが、どこかで道に迷い、ヘドロの下僕になりさがったのだ。  
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