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夕方になっても麻雪は帰ってこなかった。
「一体どこへ。もしや、もう──?」
俺は長窓のデットボルトをひっこぬいて外し、土のついたキゴのワークブーツのまま、キッチンへ入った。
ナイフの突き刺さった高級肉は冷蔵庫にぶち込まれていた。トナカイの角が嵌め込まれたバーチウッドの柄に、洒落たカードが引っ掛けられていた。中身を開いた。
”ボンゴを手配した”
──庭で黒のつがいが羽ばたいた。
窓はくもって汚れていて、複数人の指の後がついていた。食器棚の中には書類が乱雑に置かれていた。一枚一枚たしかめる。幼稚園の五月と七月のお知らせ。キャンピングカーのカタログ。それから象牙色のぶあつい紙に書かれた『指示書9番』。
その指示書9番を読む。
”材料の失敗で、損失は二億。ターゲットは口橋”
「……」
指示書をもとの場所に戻し、窓から外へ出た。
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