69番の檻

1/30
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ

69番の檻

 ──ブロンコ──  白いボンゴに乗った用心棒たちが、立ち去っていった。  奴らが居なくなると、彼女は扉から出て、血まみれのコート姿のままクレマチスの這う庭に椅子を運んだ。そしてギンガム柄のテーブルクロスを広げた。  小柄で均衡のとれた雪豹のような気配だった。軽くカールがかかったショートヘアー。俺より三歳年上で、三十二歳と刑事が言っていたが、二十二、三歳にしか見えなかった。  雪豹は生まれつき人と交わることができない。二月の雨の日、動物園でその姿を初めて見た時、心を砕かれそうになった。人間たちが笑いかけているのに、そちらを一度も見ずに、69番の檻の中でフェイクの岩盤の周りをぐるぐる回っていた。  雪豹の名前はたしか”ブロンコ”。  女のほうは”麻雪(まゆき)”。  その名を女の口から聞かされたとき、雷光が俺の心臓をチリッと裂いた。たぶん、嫌な予感ってやつだ。  
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!