65人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
69番の檻
──ブロンコ──
白いボンゴに乗った用心棒たちが、立ち去っていった。
奴らが居なくなると、彼女は扉から出て、血まみれのコート姿のままクレマチスの這う庭に椅子を運んだ。そしてギンガム柄のテーブルクロスを広げた。
小柄で均衡のとれた雪豹のような気配だった。軽くカールがかかったショートヘアー。俺より三歳年上で、三十二歳と刑事が言っていたが、二十二、三歳にしか見えなかった。
雪豹は生まれつき人と交わることができない。二月の雨の日、動物園でその姿を初めて見た時、心を砕かれそうになった。人間たちが笑いかけているのに、そちらを一度も見ずに、69番の檻の中でフェイクの岩盤の周りをぐるぐる回っていた。
雪豹の名前はたしか”ブロンコ”。
女のほうは”麻雪”。
その名を女の口から聞かされたとき、雷光が俺の心臓をチリッと裂いた。たぶん、嫌な予感ってやつだ。
最初のコメントを投稿しよう!