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21本の溝
丘の連続する場所があって、それはめずしいものなんだということは、知っていた。
一両編成の車両が、あふれる草だらけの丘のふもとを、二十五分おきに走る。線路は愛らしいほどにこじんまりとした砂利敷きの台形の盛土にのっかっていて、古いブリキ色をしている。海岸線とまったく平行に走っているから、これが俺の死ぬ時に思い出す景色だろう、と嗤う。
丘と海にはさまれた小径を歩き、真冬なのに夏色の水平線を眺めた。帆のついた船が幾艘か沖に出ていた。
ふと、アカプルコ色の屋根がきらいといった麻雪の言葉を思い出す。彼女が売ろうとしていた繋留柱の上半分の色もそれだった。タカムロ商事の扱っているシナモノだから、たぶん、あの色が嫌だったのだろう。
用心棒が来たあの日。
麻雪は、自分がタカムロ商事の社長に消される予定だってことを、知ったのだ。
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