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しかし、それでも、東丈は彼なりに考えがあって、この新著の題名を”新・幻魔の標的”と仮に名づけていたのだった。
これまでは、自分で企画を持っていくこともあったが、出版社、雑誌社からの依頼で書いてきた。しかし、もちろん、それも受けるが、それ以外でも、自分独自の本当に書きたい本を書くことが出来る。
それは、始めて気づいた、彼にとってのあたらしい驚くべき、”自由の羽根”であったのだ。
飯の種として著述をやめるつもりはない。しかし、それとはまた別に、メディアを持つ。それは、保険のようなものだったかもしれない。
だが、いわゆるの出版社からの依頼案件には、なんとも思うに任せないフラストレーションがたまっていたのだ。むろん、発表する以上は、それなりに読者のことを考えないわけにはいかないのだが、自費出版と同じ発想の丈であった。
「で、おまえさんも、あらたな”ひらりん”を目指すというわけだ」
「ちい、出たな、妖怪」
「妖怪ではない、我輩は、ドク・タイガーだ。いい加減覚えろよ」小太りの見るからに下品そうな白人中年男だ。しかも、来ているものはヨレヨレの背広。一張羅だ。
「ふん、幻魔の手先が。いい加減に、僕の邪魔をしないでくれるか」
「だから、邪魔をしに来ているわけじゃない。わしの手下にならんかと、トラバーユをすすめとるんじゃ」
以前からそうだった。神出鬼没、神社のお札をしても、どこからともなく”勝手に入ってくる”超能力者だから、始末に悪い。
「性悪のセールスマンと一緒だな。追い払っても、何度でも現れる」
「根性あふれるといってくれないか。わしのために、あの幻魔シグを封印してくれたのだからな。たとい、あいつがもう、どうしようもなく壊れた、あの敗残サイボーグのベガと同じ、哀れな”破片”だったとしてもな。あやつが、わしを”奴隷”にしおった。しかし、おまえさんが、あやつを封印してくれることで、わしを解放してくれた。その感謝感激、雨アラレセールなんだ、喜んで、わしの申し出を受けてくれんかね。なんなら、一晩くらいなら、この尻を自由にしてくれてもかまわんぞ」
「だ~うるさい。だから、その読者が誤解を招くような表現は止めてくれっていうのだ。僕は、ノーマル、ストレートなのだ」
「そこをなんとか」
「ならんよ、あったりまえだろうが」
「そうかあ?わしなら、お前さんのその、失った”次元移動”能力を回復してやることも出来るんだぞ。”あっちの世界”に残してきた妻や二人のかわいい子供たちのことが気にならんのか」
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