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「・・ふん」ドクは、一瞬たじろいだが、しかし、それでも踏みとどまったのは間違いない。「本当に、屈折しているな、おまえは。まあ、赤ん坊のときにそのように”躾け”られたのでは、どうしようもないがな。ま、日本語では、もっと端的に”調教”というがな」
「違う、違う、姉さんは、オレを愛して、それを”なきながら”やってくれたんだ」
「ふん、だれも、あの姉さんが、サディストの女王様とだとは、言っておらんだろうが」
「言ってみやがれ」
「言ったら、どうする・・」
「殺すぞ」東丈は、むずりと言った。
「ふん、超能力ひとつ使えない、ただの”真人間”が、どうしようというのだ?そこで、おとなしく歯軋りでもしておればいいのだ。愛しい女が、目の前で無体なことをされていても、それを涙してみているがいい。それが、敗北者、弱者の”受けるべき業罰”なのだ、ジョウ。わかるか、この世界ではない、実際のところ、”強者であることが全て”なのだ」
「しかし、今の世の中では・・」
「それは、どんなに強いのでも、所詮人間であれば、百人の弱者が寄ってたかって攻めてくれば勝てない・・それだけの理由じゃないか。そんな当然の道理もわからんのか、たわけのジョウ」そういって、彼を挑発しているのは間違いない。
「ああ、そうだ、わかっているよ」
「どうかな。わかっているんだろ、お前が、いじめっ子にやられているときに、その怒りに任せて、いじめっ子たちを殺さないかが心配で、あのデカブツの卓をお目付けに使っていたことを」
「・・・・」
「ミチコ姉さんはな、お前さんがいじめっ子を懲らしめるより、お前さんがきゃつらに泥団子を食わされることを良しとしたんだよ。なんという、無慈悲な姉さんだったか。それなのに、お前は、あの姉さんを熱愛しておる。それが、変態倒錯でなくて、なんであろうかな」
「ドク、きさま・・」
「どうだ、そんな姉さんが、簡単に、恋に落ちて、どこぞの”平行世界”で所帯を持って、面白おかしく暮らしている。まったく、お気楽なものだと思わないか」
「ねえさんだって、恋をして、幸せになる権利がある。誰にだって、幸せになる権利はあるんだ。いいじゃないか、放っておけば。オレも、気にしない」
「ま、確かにな。この世界の東三千子は、ついに、女神として覚醒する機会を持たなかった。アホウな弟の戦いの巻き添えで、幻魔二人組の奇襲攻撃で、死に際に超能力に開眼することも、敵前逃亡で失踪したたわけな弟の尻拭いで”救世主”の真似事を求められることもなかったからな。せいぜい、二人の弟が失踪して、一時期オタついたかも知れんが、それで彼女に何かの出番がまわってくることはなかった。まあ、いいかげん、”何をしろといわれても、困ります”で通る年代だからな。結局、末の弟の卓の残した美惠子を育ててやるのが、その仕事のようなもので。まあ、お前も、ミチコのそんな安穏な生活を望んだのかもしれないが、それがほんとうに彼女のためになったか・・考えたことはないのか」
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