第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 「勇矢さん……」  「ほんと、ごめん。生きてるのが俺で」  思わず言っていた。  独身で家族のいない彼が、直弥の代わりに死んでいたら、かすみをここまで悲しませない。  死にたいわけではないが、愛する女性の悲しみを見てしまうと、生きているのが申し訳なくなる。  沈む勇矢を見たかすみが首を振ってきた。間違えただけでなく、勇矢を傷つけたことにも罪悪感を持ったようだ。  「私こそ、ごめんなさい。勇矢さんが生きてて嫌だって思ったこと、一度もないですよ。逆に、直弥さんが勇矢さんみたいに元気だったらって……」  言いながら泣きだしたかすみを(なぐ)めるように、勇矢は髪に触れた。倒れたと聞いて来ただろう尚子(しょうこ)翔真(しょうま)の妻である愛良(あいら)(つら)そうだ。  本当に、自分のように健康だったら……勇矢も思わずにいられない。だが、今の妻の様子を見れば、直弥は心配で仕方ないだろう。静かに声を掛けた。  「そうだね……でも、今のかすみちゃんを見たら、直弥は心配でたまらないと思うよ」  勇矢の言葉に、かすみは(うつむ)いたままだ。理解しているだろうが、気持ちが追いつかないのは当然だ。  「分かってるよ。かすみちゃんが気持ちの整理ついてないの。  俺だって、今でも夢じゃないかって思うんだから、かすみちゃんが同じでも全然不思議でないからね。  でも、かすみちゃんのこと、みんな心配してるのも分かってくれないか」  かすみは、分かっているというように頷いた。
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