第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

4/42
1602人が本棚に入れています
本棚に追加
/202ページ
 ***  そのまま勇矢は、尚子(しょうこ)たちと一緒に本家へ向かった。かすみに会いに行ったと知った翔真から連絡が来たのだ。  先に食事ということなので、呼ばれた理由は(たず)ねなかった。さすがに、内容が不審な用件を聞いた結果、食事の席が重くなるのは避けたい。  リビングに移動して食後の紅茶を出されたが、ミルクを入れなかった。入れる気分になれない。  かすみの入院で受けた動揺と、これから出される話題に対する(かす)かな不安があるからだろう。  「悪かったな、急に呼びだして」  謝る翔真に首を振った。呼びだすほどの用件なら急でも仕方ない。  「大丈夫ですよ。相変わらずですから」  女や、余得を望む男たちとの付き合いが皆無になったから、飲みに行く相手は数人。勇矢は同僚とは飲まないので、家と会社の往復が多い。急な用事でも問題ない。  母親が入院で不在なので、紘基が不安そうだ。勇矢の横に座って動かない。父親と同じ容貌の勇矢に頼る気持ちが強いのだろう。膝に乗せてやると、嬉しそうに抱きついてきた。  「ほんとの親子だな」  素直に聞こえるので、微笑ましく見てくれているようでホッとする。直弥の場所にいるわけだからだ。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!