第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 「かすみちゃん、たいしたことなかったんだよな」  確認に頷いた。  過労という診断で、十日ほどの入院。重病でなくて良かったが、直弥が世を去った衝撃が大きいと知らされたわけでもある。  「ええ。大きな病気でなくて少し安心しましたね」  直弥が初めて入院した時……信じられないことを告げられた。あの時の動揺に比べれば、過労ならマシに感じる。翔真たちも同じようだ。  「でも、逆にその程度なら、退院したらすぐに復帰したがるよな」  今度は渋い表情で賛成した。医師から許可が出れば、今までどおりに無理をしそうだ。悲しみで心を閉ざされるのも(つら)いが、身体を考えない行動も同じくらい辛い。  「忘れたいから仕事っていうのは、俺にも分かるので……」  彼も、今までよりも業務に打ち込んでいる。かすみのことは言えない。しかも、新年度から霧山商事に転籍の予定だ。余計に引き継ぎ含めて真剣になる。  黙っていた遼雅(りょうが)が言葉を向けてきた。  「転籍の件なんだけど、延期したいって言ったら受け入れてもらえるかな」  「え?」  どうして、延期になるのかまったくわからない。霧山商事に問題が出たというのは、父親含めて誰からも聞いていない。
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