第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 「商事に何かありましたか?」  遼雅は否定した。少し困った表情だ。  「いや、それはないんだ。  ただ、かすみちゃんを一人にするのが心配でね。でも、僕たちはこれ以上の兼務は無理。名前を貸すしかできなかったわけだし」  本家が創設した新会社-キリヤマ・ケア・サービスは、社長が利光(としみつ)で、取締役に息子二人が入っている。だが、実際の経営は、福祉業界の経験がある人間に任せていた。  三人にこれ以上の負担は不可能だ。  そして、遼雅の妻の早恵(さえ)は産休中。復帰しても福祉関係は未経験。しかも、霧山商事国内営業部の業績アップに貢献する彼女の能力から考えるともったいない。  翔真の妻の愛良は若く、運営に関わるのが無理なのは分かる。  会話の流れから、勇矢にかすみを見守ってほしいということだと分かった。確かに霧山商事への転籍は、将来の役員を今から迎えるという意味合い。延期しても問題ないだろう。  「俺が、ケア・サービスにってことですね」  察しのいい勇矢に、遼雅が感心した雰囲気だ。  「さすがだね。その察しの良さ」  男女関係からの経験と言われているようで、微妙だ……
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