第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 だが、紘基が泣きそうな顔で勇矢に訴えてきた。  「ゆうおじさん、帰るの?」  父親は世を去り、母親は入院中。紘基は短い間だが一人になる。頼まれた勇矢が本家のみんなを見ると、尚子(しょうこ)が甥に言ってきた。  「嫌でなかったら、お泊りにならない?準備しますから」  「駄目ではないですけど……いいんですか」  紘基と一緒にいるとなれば、直弥の場所を取る形になる。勇矢は無神経になれなかった。  「可能なら、ぜひそうしてほしい。  私たちでは二人の代わりはできないからね」  寂しそうな利光の言葉に勇矢は何も返せない。そして、勇矢が泊まるようだと理解した紘基が嬉しそうに抱きついてきたから、余計に言葉が出ない。  「僕、ゆうおじさんと一緒に寝る」  心細いだろう幼児を置いて勇矢は帰れなかった。  結局、勇矢は、かすみが退院するまで本家で寝泊まりすることになった。
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