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出向を伝えると、両親は残念がったが反対は言わなかった。
夫を喪った後、無理をして倒れた女性のためと言われると、本家の意向もあるから余計に反対できない。
そして、かすみに同情していたので、仕方ないと思ったようだ。転籍の取り消しではなく延期。それも受け入れやすい理由だっただろう。
かすみの復帰と同時に勇矢も出向した。
「え……勇矢さん、どうしてここに?」
驚くかすみに勇矢は笑った。
「しばらくこっちに出向になったんだ。専任のプログラマーとしてね」
彼がなぜ、突然出向してきたのか分かったようで、かすみは申し訳なさそうだ。
「ごめんなさい、私のせいですね。勇矢さん、もうじき商事なのに……」
勇矢は軽く笑った。彼に上昇志向はない。かすみの傍で見守れるなら、彼も安心できる。地位が上がるよりも、もっと大事なことだ。
「そんなことないって。元々、誰か入れるって話はあったんだ。
初めてのプロジェクトだから霧山家から出さないとね。本家直轄組織なんだしさ、失敗はできないって。それなら優秀なプログラマーが必要でしょ?」
自分で自分を優秀と言うと、かすみが小さく笑った。しばらくぶりに見る彼女の笑顔。かすみも驚いたようだったが、勇矢は泣きそうなほど嬉しかった。
どんな小さなことでもいい。彼女には笑ってほしかった。
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