1609人が本棚に入れています
本棚に追加
***
両親は反対しなかったのに、不満を言ってきたのは、無関係なはずの貴和だった。
遼雅が結婚して息子が生まれた。
将貴が後継になる可能性は皆無に近くなった。なので、独身の弟の後継ぎを狙っているようで、勇矢が来た時に訪問することが多くなった。
互いに、以前揉めたことはなかったように会話をしている。貴和の思惑はともかく、勇矢は親を悲しませたくないというだけだ。なので、久しぶりになる姉の不穏当な雰囲気だった。
「どうして貴方があんな会社に出向なの。勇矢は霧山家よ。商事に決まってたのに、あの程度の会社に行くなんて。
あの女のせいでしょう?まったく、伯父さまたちは何を考えているのかしら。直弥が死んだのだから、あんな母子、実家に帰すべきよ。
お父さまたちだって気を使う必要はないのに、何を遠慮しているの」
両親は押されたようで黙っているが、勇矢は姉に言い返した。
「俺の勝手だ。姉さんに口出しする権利ないぞ。
俺は直弥を忘れたくない。伯父さんたちの気持ちが痛いほど分かる。だから喜んで参加するんだ。かすみちゃんのためじゃない。自分のためだ。
直弥が死んで辛いんだよ。直弥が望んだことをしたいんだよ。
姉さんは従弟が死んでも何も感じないのかよ。そんな姉を持った俺は本当に不幸だよ!」
勇矢の心の痛みが表れた言葉だったが、貴和には通じなかった。彼女には最後の言葉だけが意味を持って聞こえたようだ。
「私が姉で不幸ですって!私こそ、こんな愚かな弟を持った不幸な人間よ。
そんなことを言う人間は勝手にすればいいのよ。この家の後継ぎも勝手に探しなさい。将貴にさせるのは認めないわ」
貴和は、怒りを両親にも向けた。
「お父さま、お母さま、分かったわね。
勇矢の顔も見たくない。私が来る時は絶対に来させないで!」
大声で叫んだ後、貴和は足音も激しくリビングを出ていった。ドアの開閉の激しい音がして静まると沈黙が落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!